【業界記事】2025年最新│病院・医療法人の買収と譲渡の実態|M&Aで病院経営を守る方法とは?

2025年、日本の医療業界は深刻な後継者不足と経営難に直面しています。特に地方の中小規模の病院やクリニックでは、経営者の高齢化が進み、事業承継が喫緊の課題となっています。このような背景から、M&Aを活用した事業承継が注目を集めています。本記事では、病院・医療法人業界におけるM&Aの実態や成功事例、法改正の影響などを詳しく解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済み
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済み
目次
医療業界とは?
医療業界は、病院、診療所、クリニックなどの医療機関を中心に構成されており、これらの多くは「医療法人」として運営されています。医療法人は、非営利性を基本とし、地域医療の提供を目的としています。しかし、近年では経営の効率化や事業承継の観点から、M&Aを通じた再編が進んでいます。
なお、病院と診療所(医院・クリニック)は混同されがちですが、医療法に基づいて明確に区分されています。病院と診療所の違いは病床数です。
・病院:20床以上の入院施設を持つ医療機関
・診療所:19床以下の入院施設または無床の医療機関
業界概況|病院・医療法人業界を取り巻く環境変化
少子高齢化による医療ニーズの変化
日本の高齢化率は2023年時点で29.1%に達し、今後も上昇が見込まれています。これに伴い、慢性疾患や認知症などの医療ニーズが増加し、医療・介護サービスの需要が高まっています。特に、在宅医療や訪問看護の重要性が増しており、地域包括ケアシステムの整備が急務とされています。また、医療・介護従事者の確保や地域間のサービス格差是正も重要な課題となっています。
【出典元:厚生労働省「高齢社会白書(令和6年版)」】
医療・介護の複合ニーズの高まり
医療従事者の有効求人倍率は、全職業平均と比較して依然として高い水準で推移しています。特に医師、看護師、薬剤師、医療技術職は都市部への集中が進む一方で、地方・中山間地域では人材確保が困難な状況が続いています。
医療機関の経営難と倒産の増加
医療報酬の抑制政策や診療報酬改定の影響、患者数の減少、感染症対応によるコスト増などにより、中小規模病院の経営は悪化しています。
2024年、医療機関の倒産件数は64件(前年比56.0%増)となり、過去20年で最多を記録しました。特に、クリニックや歯科医院の倒産が増加し、20床以上の病院の倒産も前年比3.5倍に急増しています。また、休廃業・解散は598件(同14.1%増)で、クリニックが6割、歯科医院が2割を占め、小規模医療機関の閉院が加速しています。これらの背景には、人口減少、経営者の高齢化、人材不足、医療設備の老朽化、コストの上昇など、複合的な課題が影響しています。
【出典元:東京商工リサーチ│2024年「医療機関」の倒産、休廃業・解散調査】
地域医療構想による病床再編の影響
厚生労働省が推進する「地域医療構想」により、各地域において病床の機能分化・集約化が進んでいます。
これは、限られた医療資源を効率的に配置する狙いですが、一部の医療機関には統合・縮小・再編の圧力がかかっており、経営戦略の転換が迫られています。
【出典元:厚生労働省「地域医療構想」】
診療報酬改定と制度変更の影響
診療報酬は2年ごとに見直されており、2024年度改定では入院基本料・外来医療の再評価が行われました。
加えて、働き方改革関連法の適用により、医師の時間外労働上限規制が2024年4月から導入され、人件費の増加と業務効率化の要請が病院にのしかかっています。
【出典元:厚生労働省「診療報酬改定情報(令和6年度)」】
病院・医療法人業界の課題と事業承継ニーズ
病院・医療法人業界が直面する主な課題と、それに伴う事業承継のニーズは以下の通りです。
- 後継者不在と経営者の高齢化
- 地域医療構想による病床再編と経営環境の変化
- 医療従事者の不足と地域間の偏在
病院・医療法人業界では、経営者の高齢化と後継者不在が深刻な問題となっています。特に、病院・診療所(クリニック)などを含む医療業界の後継者不在率は61.8%と、全業種平均の52.1%を大きく上回っています。
そこに追い打ちをかけるように、厚生労働省の地域医療構想によって病床数の見直しや機能分化が進められ、経営環境は大きく変化しています。加えて、医師や看護師など医療人材の不足や地域間での偏在も顕著で、安定した医療提供体制の維持が難しくなってきています。こうした背景から、第三者への承継やM&Aを活用して事業を次世代につなげる動きが全国的に広がっています。
【出典元:全国「後継者不在率」動向調査(2024年)】
病院・医療法人におけるM&Aの動向
2025年現在、病院・医療法人業界では、以下のようなM&Aの動向が見られます。
大規模医療法人による中小病院の買収が活発化
高齢化の進展と医療報酬制度の見直しにより、中小規模の病院やクリニックの経営環境は年々厳しさを増しています。特に、後継者不在や施設の老朽化、医師・看護師の確保難といった課題を抱える医療法人が増加しており、経営を維持することが困難なケースも少なくありません。
こうした中、大規模医療法人や医療グループが地域密着型の中小病院を買収し、ネットワーク化による経営効率の向上や、医療機能の再配置を図るM&Aが加速しています。
地域包括ケアシステムに対応した連携型M&Aの増加
国が推進する地域包括ケアシステムのもと、在宅医療や介護事業と連携できる医療体制の構築が重要視されるようになりました。これに伴い、病院と在宅診療所、訪問看護ステーション、介護施設などが連携・統合するM&Aが進行しています。
特に、地域の中核病院が医療法人格を維持したままグループ化し、介護・福祉との垣根を超えたネットワークを構築するケースが増えています。
医療機能分化・再編を目的としたM&Aの促進
厚生労働省が進める「地域医療構想」により、医療機関には高度急性期・回復期・慢性期といった機能ごとの役割分担が求められています。これに対応するため、医療法人同士が診療機能を補完し合う形での統合や再編が進んでいます。
特に、地域で慢性期医療を担う中小病院が、急性期医療機関と連携する形でM&Aを行い、医療の質と効率性を高める事例が増えています。
病院・医療法人業界におけるM&Aのメリット
■ 売り手側のM&Aのメリット
- 後継者問題の解消
- 地域医療の維持
- 経営基盤の安定化
- 従業員の雇用確保
- 売却時の獲得
病院・医療法人がM&Aを通じて事業を譲渡することで、深刻化する後継者不在の問題を解決できるとともに、地域住民に対する医療提供体制を途切れさせることなく維持することが可能となります。特に、診療科目の偏りや医師不足などの課題を抱える中小病院にとっては、大手医療法人との統合により経営基盤の安定化が図れる点が大きな利点です。また、医療スタッフの雇用が継続されることで、患者との信頼関係や医療の質も保たれます。さらに、経営資産の売却により、医療法人の理事や理事長がリタイア後の生活資金を確保できる点も、医療法人におけるM&Aの重要なメリットです。
■ 買い手側のM&Aのメリット
- 事業拡大
- 人材確保
- 設備投資の効率化
病院・医療法人の買い手にとってM&Aは、地域や診療領域の拡大を図る上で非常に有効な手段です。既存の医療施設を引き継ぐことで、新たなエリアや診療科に迅速に進出できるほか、地域医療ニーズに即したサービス提供が可能となります。また、既に地元に根ざしたスタッフや医師、看護師などの人材を確保できるため、人手不足が深刻な医療業界においては大きな戦力となります。さらに、既存の医療機器や施設を活用することで初期投資を抑えられ、設備投資の効率化にもつながります。これにより、限られた資源の中で高品質な医療提供体制を実現しやすくなります。
■ M&Aのリスクと対策
- 文化・理念の不一致]
- 法的・制度的な手続きの複雑さ
- 従業員や患者の不安
病院・医療法人におけるM&Aでは、いくつかのリスクにも注意が必要です。まず、譲渡元と譲受先の経営理念や医療方針の不一致は、医療現場の混乱や職員の士気低下を招くおそれがあります。とくに、地域に根ざした病院ほど、診療スタイルや地域住民との関係性に強い特色があるため、文化的な違いの調整が欠かせません。
また、医療法人特有の法的・制度的な手続きも大きなハードルとなります。都道府県や厚生局の許認可が必要であり、出資持分の有無によっては法人の形態変更や資産処理など、煩雑な事務処理を要するケースもあります。
さらに、M&Aにより従業員や患者に不安を与える可能性も否定できません。経営者の交代によって待遇や診療体制が変わるのではないかと懸念され、離職や受診控えにつながるリスクがあります。こうした事態を防ぐためには、早い段階からの情報共有と丁寧な説明、そして譲受後のフォロー体制が非常に重要です。
病院・医療法人業界において事業承継を成功させるためのM&Aポイント
病院・医療法人の事業承継では、医療法による規制や出資持分制度、行政手続きの複雑さなど、業界特有の要件を踏まえた対応が不可欠です。以下のポイントを押さえることで、地域医療を守りながら、円滑かつ実効性のあるM&Aを実現できます。

1. 準備は「最短でも2年前」から始める
病院・医療法人のM&Aは、許認可や内部調整に時間を要するため、早期準備が不可欠です。特に医療法人の出資持分がある場合、持分放棄や「基金制度」への移行などの対策が必要になる可能性があるため、専門家への早期相談が望まれます。
【出典元:厚生労働省「医療法人制度の見直し」】
2. 経営方針・理念が合う相手と組む
医療法人は地域との関係性が深く、経営理念や診療方針の違いが統合後のトラブルの火種になります。M&A相手選びでは、単なる財務条件よりも「価値観の一致」が成功の鍵です。
3. 行政手続きは事前確認が必須
病院M&Aでは、都道府県知事への届出・認可や厚生局との協議が必要です。また、病床機能の変更がある場合は、地域医療構想との整合性もチェックされます。専門家と協働で段取りを確認することが大切です。
4. 職員・患者との関係維持に配慮を
M&Aによる経営体制の変更は、職員や患者にとって大きな不安材料です。承継前から十分な説明を行い、待遇や医療体制が大きく変わらないことを明示することで、信頼関係を維持できます。
5. 専門家の支援を受けて進める
医療M&Aには、医療法、法人税法、民法などの専門知識が必要です。弁護士、税理士、M&Aアドバイザーなど、医療業界に精通した専門家をチームとして活用することで、スムーズでリスクの少ない承継が可能となります。
成功事例|病院・医療法人業界のM&Aによる事業承継
■ メドピアによるクラウドクリニックの株式譲渡(2024年)
ファストドクター株式会社は、メドピア株式会社の連結子会社である株式会社クラウドクリニックを完全子会社化する株式譲渡契約を締結しました。このM&Aにより、ファストドクターは在宅医療支援事業を強化し、診療支援から医療事務に至るまで一貫した分業・連携を提供する体制を構築しました。クラウドクリニックの医療事務BPOのノウハウとファストドクターの医療プラットフォームを融合させることで、在宅医療の質と効率の向上が期待されています。
【出典元:ファストドクター株式会社│PR TIMES】
■ 医療法人おひさま会とオープングループ株式会社の業務提携(2024年)
在宅医療を提供する医療法人おひさま会は、医療業務の効率化を目指すオープングループ株式会社と業務提携を締結しました。両者は共同で新会社「ホスピタリティパートナーズ株式会社」を設立し、医療現場の課題解決に取り組んでいます。
【出典元:オープングループ株式会社 公式プレスリリース】
■ メディカルネットによるノーエチ薬品の買収(2023年)
株式会社メディカルネットは、完全子会社を通じてノーエチ薬品株式会社の全株式を取得し、完全孫会社化しました。ノーエチ薬品は、大衆医薬品を中心としたファブレスメーカーで、60年以上の歴史を持ちます。本件により、メディカルネットは歯科領域における医薬品開発の強化と事業の多角化を図っています。
【出典元:株式会社メディカルネット│PR TIMES】
■ 医療法人桂名会によるNTT西日本東海病院の事業承継(2021年)
医療法人桂名会は、NTT西日本東海病院の事業を継承し、新たに「大須病院」を開設しました。これにより、急性期、回復期、健診の3本柱を持つ地域密着型の医療提供体制が整備され、名古屋市中区の医療ニーズに応える体制が強化されました。このM&Aは、地域医療の継続と発展に寄与する成功事例といえます。
【出典元:医療法人桂名会│PR TIMES】
■ 医療法人ときわ会による翔洋会の事業承継(2019年)
医療法人翔洋会が経営再建を進める中、公益財団法人ときわ会および医療法人社団ときわ会が、翔洋会の医療・介護事業を引き継ぐことが決定しました。これにより、磐城中央病院や小名浜中央病院、介護老人保健施設ヘルスケアホームいわきなどが新たな運営体制のもとで継続されることとなりました。この事業承継は、地域医療と介護サービスの安定的な提供を目的とした成功事例といえます。
【出典元:ときわ会グループ 公式プレスリリース】
■ 済生会による横浜逓信病院の事業譲受(2019年)
社会福祉法人恩賜財団済生会は、日本郵政株式会社から横浜逓信病院の事業を譲受しました。この譲受により、済生会は横浜市神奈川区に位置する同病院の運営を引き継ぎ、地域医療の継続と強化を図っています。今後、施設の改修などを経て、新病院としての診療開始が予定されています。
【出典元:神奈川県済生会 公式プレスリリース】
法改正・制度変更の影響と今後の展望
近年、医療法人制度を取り巻く法制度は大きく見直されており、事業承継やM&Aにも少なからず影響を与えています。
まず、医療法人においては「出資持分のない医療法人(=持分なし)」への移行が推奨されており、今後の制度運用においても、非営利性の徹底が強調されています。持分のある医療法人は、解散時の残余財産の分配や譲渡制限の観点から、承継やM&Aにおいて障壁となることがあるため、早期の見直しが求められる場面も増えています。
また、厚生労働省が推進する「地域医療構想」に基づき、病院の機能分化や病床再編も加速しており、今後は医療機関同士の連携・再編を伴うM&Aの重要性がさらに高まると見られます。
さらに、法人版事業承継税制の活用も注目されています。一定の条件を満たすことで、贈与税や相続税が大幅に軽減される制度であり、医療法人の承継においても有効な選択肢となり得ます(※ただし、医療法人への適用には制限があります)。
今後は、医療提供体制の維持と効率化を目的とした制度改革がさらに進む見通しであり、医療法人にとっても「早期の準備」と「法制度の正確な理解」が、円滑な事業承継と地域医療の持続に不可欠となります。
まとめ│病院・医療法人におけるM&A
病院・医療法人業界では、後継者不在や経営環境の変化、人材不足など、複合的な課題が深刻化しています。こうした中、M&Aは単なる「売却手段」ではなく、地域医療の継続や職員の雇用維持、経営基盤の強化といった多くのメリットを持つ、前向きな事業承継の方法です。
法制度や業界特有のルールも多い医療法人のM&Aは、適切な準備と専門的な知見が不可欠です。
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