【業界記事】2025年最新│農業におけるM&Aの実態とは?│事業承継を成功に導く法制度・事例・支援策を徹底解説

日本の農業は今、転換点にあります。農業従事者の平均年齢は68.7歳に達し、後継者不在による「静かな廃業」が全国で続出しており、農業M&Aという新たな事業承継手段が注目されています。
従来は家族経営が多かった農業ですが、法人化や設備投資の進展により、他業種と同様に「売れる資産」として承継が可能になっています。本記事では、農業におけるM&Aの現状、法制度、成功事例、リスクと対策について解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済み
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済み
目次
農業業界の現状と課題
農業従事者の高齢化と後継者不足
日本の農業従事者は高齢化が進行しており、2023年時点で基幹的農業従事者の平均年齢は68.7歳に達しています。特に65歳以上の割合は70.8%を占め、若年層の参入が少ないことが顕著です。このような高齢化は、農業の持続可能性に深刻な影響を及ぼしています。

【出典元:農林水産省「農業経営体等の動向2023年」】
新規就農者の減少と若年層の参入不足
農業分野への新規就農者数は減少傾向にあります。特に49歳以下の基幹的農業従事者数は13万3千⼈と全体の約1割を占めている⼀⽅、65歳以上は82万3千⼈と全体の約7割を占めています。
【出典元:農林水産省「農業経営体等の動向 2023年」】
耕作放棄地の増加
耕作放棄地の面積は年々増加しており、2015年には42万3,000ヘクタールに達しました。これは、農業従事者の高齢化や後継者不足、農業収益の低下などが主な原因とされています。

【出典元:農地・耕作放棄地面積の推移】
(参考)「耕作放棄地」とは、農林水産省が5年ごとに実施している「農林業センサス」の用語であり、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年間の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地」と定義されています。
【出典元:耕作放棄地│滋賀県ホームページ】
地域経済・食料自給率への影響
農業従事者の高齢化や耕作放棄地の増加は、地域経済や食料自給率にも影響を及ぼしています。農業の衰退は地域の雇用機会の減少や、食料の安定供給に対するリスクを高める要因となっています。
農業M&A動向│なぜ今「農業M&A」が注目されているのか?
2025年現在、農業では、以下のようなM&Aの動向が見られます。
- 法人化農家の増加
- 地方創生への貢献
- 6次産業化・スマート農業との相乗効果
- 経営資源の一括承継が可能
現在、農業M&Aが注目される理由は多岐にわたります。第一に、農業の法人化が進み、従来の個人経営では難しかった株式譲渡や事業譲渡が現実的な選択肢となってきました。第二に、地域密着型の農業を維持するために、地方自治体も含めた「地方創生」の文脈でM&Aが支援されています。第三に、6次産業化(生産・加工・販売の一体化)やスマート農業(ICTやドローンの導入)との連携によって、M&Aによる成長戦略が描きやすくなっています。最後に、農地・設備・人材・ブランドなどの経営資源を一体で引き継ぐことができる点が、売り手・買い手の双方にとって大きなメリットとなっています。
農業M&Aの法制度と支援体制
農地法による農地の権利移転
農地法は、農地の適正な利用を確保するため、農地の売買や貸借に対して厳格な規制を設けています。具体的には、農地の所有権移転や賃貸借契約を行う際には、農業委員会の許可が必要です。この制度は、農地の無秩序な転用や投機的取引を防ぎ、農業生産の安定を図ることを目的としています。
農地中間管理機構の活用
農地中間管理機構は、農地の集積・集約化を促進するために設立された公的機関です。農業者が所有する農地を一時的に預かり、意欲ある担い手に貸し出すことで、農地の有効活用を図ります。M&Aの場面では、農地の権利移転が難しい場合に、機構を通じて農地の貸借を行うことで、スムーズな事業承継が可能となります。
農業経営基盤強化促進法による支援
農業経営基盤強化促進法は、農業経営の効率化と安定化を目的として、農業者の経営基盤を強化するための施策を定めています。この法律に基づき、農業経営改善計画の認定を受けた農業者には、税制優遇や金融支援などの措置が講じられます。M&Aを通じて事業承継を行う際にも、計画的な経営改善を図ることで、これらの支援を受けることが可能です。
農業委員会によるマッチング支援
各市町村に設置されている農業委員会は、農地の利用調整や農業者の支援を行う機関です。近年、農業委員会は、後継者不在の農業者と新規就農希望者や企業とのマッチング支援を強化しています。M&Aによる事業承継を検討する際には、農業委員会に相談することで、適切な相手先の紹介や手続きのサポートを受けることができます。
農業におけるM&Aのメリット
■ 売り手側のM&Aのメリット
- 後継者不在でも経営資産を次世代に引き継げる
- 農地や設備の活用が継続され、耕作放棄を防げる
- 自社のブランド・ノウハウを残せる
- 売却収入を老後資金や次のステージの資金に充てられる
農業経営者が高齢で後継者が不在の場合でも、M&Aを活用することでこれまで築いてきた経営資産を次世代に託すことができます。廃業に比べて地域農業の継続性を守ることができ、売却益を老後の生活資金に活用することも可能です。
■ 買い手側のM&Aのメリット
- 初期投資を抑えて農業に参入できる
- 地元に根付いたブランドや販路を活用できる
- 熟練の従業員やノウハウを引き継げる
- スマート農業との融合により成長を加速できる
農業への新規参入を検討する企業にとって、ゼロから農業を始めるよりも既存の農業法人や個人農家を承継することで、設備・人材・ブランドを即座に活用できます。また、スマート農業との掛け合わせにより、効率的な農業経営が可能となります。
■ M&Aに伴うリスクと対策
- 農地法による許認可のハードル
- 地域との関係性が築けず孤立するリスク
- 買い手に農業経営ノウハウが不足している
対策としては、農業委員会や中間管理機構と連携してスムーズな許認可を行い、事前に地域住民や関係者との信頼関係を構築することが重要です。また、農業経験の少ない買い手は、承継後にOJTや外部研修などで経営ノウハウを早期に補う体制を整えることが求められます。
農業におけるM&Aのスキーム(取引手法)
農業におけるM&Aは、売り手が個人農家か法人かによって適用されるスキームが異なります。ここでは、主に活用される2つのスキームについて分かりやすく整理します。
■ 個人によるM&A
- 株式譲渡方式(法人全体の経営権を移転)
- 事業譲渡方式(農場や特定事業部門のみの譲渡)
- 合併・会社分割方式(法人再編を伴う承継)
個人農家がM&Aを行う場合、主に事業譲渡の形で農機具・ビニールハウス・施設などの資産を譲渡し、顧客や仕入先などの契約も可能な範囲で引き継がれます。農地は売買ではなく「農地中間管理機構」などを通じたリース引継ぎが一般的です。
■ 法人によるM&A
- 株式譲渡方式(法人全体の経営権を移転)
- 事業譲渡方式(農場や特定事業部門のみの譲渡)
- 合併・会社分割方式(法人再編を伴う承継)
農業法人の場合、株式譲渡により法人の経営権を新オーナーに移すケースが多く、法人格や許認可、補助金制度の継続などの利点があります。特定の農場や部門のみを切り出して譲渡する事業譲渡や、グループ内再編による会社分割・合併なども選択肢です。
農業のM&Aによる事業承継の進め方
農業におけるM&Aによる事業承継は、段階的な手続きと法的対応を伴います。以下の5つのステップで進めると、スムーズな承継が可能です。
STEP 1:専門家や支援機関への相談
まずは、農業M&Aに精通した専門家(M&Aアドバイザー、税理士、行政書士)や、農業委員会・自治体などの公的機関に相談することから始めます。現状の整理と今後の方向性を明確にします。
STEP 2:資産と経営内容の棚卸
次に、自社の農地、機材、施設、人材、ブランド価値などの経営資源を洗い出し、「どこまで引き継いでもらいたいか」を明確にしておきます。法人の場合は株式の譲渡可否、個人の場合は事業譲渡の範囲を検討します。
STEP 3:譲渡方法と相手先の検討
「株式譲渡」「事業譲渡」「農地の賃貸」など、最適な譲渡方法を選びます。あわせて、M&Aマッチングサイトや専門家を通じて、適切な買い手候補を探します。
STEP 4:法的手続き・調整
農地の移転には農業委員会の許可が必要です。また、農地中間管理機構を活用したリース方式なども検討されます。その他、契約書の作成や各種許認可の名義変更など、実務的な準備を進めます。
STEP 5:契約締結・引継ぎ
条件が整ったら最終契約を締結し、引継ぎを行います。従業員や地域への説明を丁寧に行い、事業が円滑に継続されるようフォロー体制も整えます。
成功事例|農業のM&Aによる事業承継
■ Oishii FarmによるTortuga AgTechの技術資産取得(2025年3月)
植物工場を展開するOishii Farmは、自動収穫技術を有するTortuga AgTechの主要な知的財産と関連する一部資産を取得し、同社のエンジニアリングチームを迎え入れました。これにより、農場の自動化をさらに加速し、持続可能な農業の実現を目指しています。
【出典元:Oishii Farm│PR TIMES】
■ 株式会社椿本チエインによる株式会社木田屋商店のアグリ事業買収(2024年8月)
株式会社椿本チエインは、アグリ事業の拡大を目的として、株式会社木田屋商店のアグリ事業を買収し、農作物栽培・販売子会社「株式会社ツバキベジムーブ」を設立しました。
【出典元:株式会社椿本チエイン│公式プレスリリース】
■ 住友商事によるルーマニアの農業資材直販会社Naturevoの完全子会社化(2024年6月)
住友商事は、ルーマニアで農業資材直販事業を展開するNaturevo S.R.L.を完全子会社化しました。これにより、欧州における農業資材の安定供給と農業生産の効率化を図っています。
【出典元:住友商事│公式プレスリリース】
■ 株式会社ベーシックによる株式会社日の丸産業社への出資(2020年7月)
株式会社ベーシックは、北海道を拠点に農業資材の販売や農業支援事業を展開する株式会社日の丸産業社に出資しました。この出資により、日の丸産業社の経営基盤を強化し、農業分野における新たな価値創出を目指しています。
【出典元:ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社│公式プレスリリース】
■ エア・ウォーター株式会社によるベジテック株式会社への出資(2019年2月)
エア・ウォーター株式会社は、青果物の生産・調達から加工・販売までを手掛けるベジテック株式会社に出資し、資本業務提携を締結しました。この提携により、両社は原料調達機能の強化や加工・物流・販売におけるリソースの相互活用を図り、安定供給体制の構築や地域農業の振興を目指しています。
【出典元:エア・ウォーター株式会社│公式プレスリリース】
農業による事業承継を成功させるためのM&Aポイント
農業分野におけるM&Aは、他業種に比べて特殊な制度や地域性があるため、成功させるにはいくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。

1.地域との信頼関係の構築
農業は地域社会との結びつきが強く、外部の買い手が急に入っても地元の理解が得られないことがあります。事前に地元の農業委員会や自治体、JAなどと連携し、説明や合意形成を丁寧に行うことが成功のカギとなります。
2.農地利用の法的手続きを怠らない
農地の所有や利用には農地法上の制限があります。承継後にトラブルを防ぐためにも、農業委員会を通じた許可取得や、「農地中間管理機構」を通じたリース方式の活用を検討しましょう。
3.承継後の運営体制・ノウハウ確保
農業の経営には現場での経験や知識が求められます。承継と同時に既存の従業員を維持する、経験者の支援を得る、または就農研修を受けるなどの体制づくりが重要です。
4.適正なバリュエーション
農業の価値は、農地だけでなく、設備、販路、ブランド、従業員などの無形資産にもあります。単なる帳簿評価ではなく、事業の継続性や成長性も考慮した上での適正評価が必要です。
農業による今後の展望と戦略的ポイント
農業M&Aは今後さらに拡大していく可能性があります。以下のような展望と戦略的ポイントが予想されます。
法制度の整備と支援の拡充
2024年度以降、農業経営基盤強化を目的とした法制度の改正が進められています。特に農地中間管理機構の活用強化や、事業承継に対する支援制度の拡充により、M&Aを活用した承継がより進めやすくなると期待されます。
【出典元:農林水産省「食品産業の持続的な発展に向けた対応方向(案)」】
スマート農業との連携
IoT、AI、ドローンなどのスマート農業技術の導入が進んでおり、これらとM&Aを組み合わせることで、生産性と収益性を高めることが可能です。M&Aによって経営基盤を拡充し、次世代型農業にスムーズに移行する企業が増えています。
異業種からの参入拡大
IT企業、食品メーカー、商社、ベンチャー企業など、異業種からの農業分野への関心が高まっています。これらの企業が地域農業の担い手としてM&Aを通じて参入する事例が増加傾向にあります。
地域農業の再構築と価値創出
M&Aを通じて経営体を再編・統合し、地域全体の農業経営を再構築する動きも進んでいます。複数の農家が合同で事業譲渡を行い、ブランドや加工施設を共有する事例なども増えており、新たな地域価値の創出につながっています。
【出典元:農林水産省「つながりを作る 6次産業化 が新たなビジネスを生み出す。」】
まとめ│大切な農業を次の世代へ
農業のM&Aは、単なる事業の売買ではありません。長年培った農地やノウハウ、地域とのつながりを未来につなぐ手段です。特に高齢化や後継者不足が深刻な現代において、M&Aは事業の継続性を確保する有効な選択肢となっています。
事業の引継ぎにあたっては、農地法の理解、地域との信頼関係構築、そして買い手の農業運営体制の整備など、多面的な準備が必要です。しかし、早めの行動と専門家の支援を活用することで、円滑な承継が実現できます。
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業界特化法人部 コンサルタント
安達 真登
大学卒業後、新卒で山形県庁に入庁。約7年半、商工や財政部門の業務に従事。その後、農林水産省への出向を経て、2024年10月からたすきコンサルティングに参画。
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農業を取り巻く環境は大きな変化を迎えています。農業従事者は高齢化、新規就農者数は減少、耕作放棄地の増加など、多くの経営者様が将来への不安を抱えていらっしゃいます。
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