【業界記事】2025年最新│通信インフラ業界のM&A市場動向と注目事例|事業承継を見据えた戦略とは?

通信インフラ業界は、5G・クラウド・IoTの進展により急速な変革を遂げています。一方で、設備投資の増加や人材不足、後継者不在といった課題も顕在化しています。これらの課題に対応する手段として、M&Aが注目されています。本記事では、通信インフラ業界における最新のM&A動向や成功事例、事業承継を成功させるためのポイントについて解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済み
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済み
目次
通信インフラ業界とは?
通信インフラ業界は、通信キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなど)や、ネットワーク設備・データセンター・回線提供などのインフラサービス事業者(NTTコミュニケーションズ、アルテリア・ネットワークス、さくらインターネット等)を含む広範な分野です。これらの企業は、社会インフラとしての重要性が増す中で、技術革新や市場の変化に対応しています。
通信インフラ業界の課題と事業承継問題
通信インフラ業界は、社会基盤として不可欠な役割を担う一方で、事業運営上の構造的な課題を多く抱えています。特に中小規模の通信事業者や設備工事会社を中心に、次のような問題が顕在化しています。
設備投資の増加と資金調達の難化
5G・クラウド・IoT対応の進展により、通信インフラの高度化が加速しています。これに伴い、光回線敷設、基地局増設、データセンター整備といった初期設備投資額が大きく増加しています。大手キャリアと比べ資本力に乏しい地方事業者や中小インフラ企業では、資金調達の難しさが経営課題としてのしかかり、成長投資に踏み切れない状況が続いています。
専門人材の慢性的不足
通信インフラの整備・保守に携わるには、高度なネットワーク設計技術や施工管理スキルが必要です。しかし、技術者の高齢化と若手の人材確保難が重なり、特に地方では「技能継承」が進まず、技術力の維持に支障が出ています。こうした背景が、M&Aを通じた人材確保や体制補完の動機につながっています。
経営者の高齢化と後継者不在問題
通信設備工事業者や地域通信プロバイダーなどでは、創業者経営の企業が多く、後継者不在のまま時間が経過しているケースが多数見られます。
実際に日本政策金融公庫の調査(2023年)によれば、「情報通信業」における後継者未定企業の割合は20.0%と、全業種平均(17.6%)を上回る水準です。
【出典元:日本政策金融公庫 総合研究所「中小企業における事業承継問題の実態と変化」】
通信インフラ業界のM&A動向
技術獲得を目的としたM&Aの活性化
5G、クラウド、エッジコンピューティングなどの急速な技術革新に対応するため、通信インフラ企業は自社内での開発に加え、新技術を有する外部企業の買収を積極的に進めています。特に大手通信キャリアやインフラベンダーは、AIネットワーク制御、IoT通信基盤、セキュリティソリューションを持つベンチャー企業の買収により、既存サービスの高度化と新規領域への展開を図っています。こうした動きは、技術進化が著しいこの業界において競争優位を維持するための重要な手段となっています。
設備投資負担を分散させるための統合
通信インフラの整備には、光回線敷設、基地局設置、データセンター運営など、巨額の初期投資と継続的な運用コストが発生します。特に中小・地方の事業者にとってはこの投資負担が重く、単独での成長には限界があるのが実情です。そのため、近年は大手との資本提携やM&Aによるグループ化が進み、インフラ設備の共同運用やノウハウ共有を通じて、コスト効率の向上と競争力強化を実現する動きが広がっています。
事業承継を目的としたM&Aの増加
通信設備工事業者や地域系ISPなど、特に地方を中心とした中小規模の通信インフラ関連企業では、経営者の高齢化と後継者不在が深刻な課題となっています。日本政策金融公庫の調査(2023年)によれば、「情報通信業」における後継者未定企業の割合は20.0%に達しており、全業種平均(17.6%)を上回る状況です。このような中、第三者承継の手段としてのM&Aが急増しており、地域インフラの維持・継続を目的とした買収案件が目立つようになっています。
【出典元:日本政策金融公庫 総合研究所「中小企業における事業承継問題の実態と変化」】
通信インフラ業界のM&A成功事例
■ SBペイメントサービス株式会社によるアイ・ティ・リアライズ株式会社の完全子会社化(2025年)
ソフトバンク株式会社の子会社であるSBペイメントサービス株式会社は、金融アプリケーションサービスを展開するアイ・ティ・リアライズ株式会社を完全子会社化しました。この買収により、SBペイメントサービスは決済サービスの強化と新たな市場への展開を図っています。
【出典元:アイ・ティ・リアライズ株式会社 公式プレスリリース】
■ 株式会社JTOWERの公開買付けによる経営基盤強化(2024年)
株式会社JTOWERは、米国のインフラ投資会社DigitalBridge Group, Inc.による公開買付け(TOB)を受け入れました。この取引により、JTOWERはインフラシェアリング市場の確立に向けた経営基盤を強化し、通信業界の発展に貢献することを目指しています。
【出典元:株式会社JTOWER│PR TIMES】
■ ソフトバンクによるCubic Telecomへの出資(2023年)
ソフトバンクは、コネクテッドカーおよびソフトウェア定義車両(SDV)向けのIoTプラットフォーム構築を目的に、アイルランドのCubic Telecomへ出資しました。これにより、グローバルなIoTサービスの提供体制を強化しました。
【出典元:ソフトバンク 公式プレスリリース】
通信インフラ業界におけるM&Aのメリット
■ M&Aメリット
- 技術力・サービス競争力の強化
- 設備・リリースの共有による効率化
- 商圏・顧客基盤の拡大
- 事業承継の円盤化とブランド継続
通信インフラ業界におけるM&Aは、先端技術や専門ノウハウを持つ企業を取り込むことでサービス競争力を強化できるほか、巨額な設備投資の負担を複数企業間で分散し資本効率を高める手段としても有効です。また、商圏や顧客基盤の拡大による市場シェアの向上や、後継者不在企業の事業承継を円滑に進めながら、従業員や顧客に安心感をもたらすという面でも、大きなメリットがあります。
■ M&Aに伴うリスクと対策
- 技術統合の難しさ
- 人材流出と組織文化の衝突
- 行政許認可・規制対応の遅延
一方で、通信インフラ業界におけるM&Aには、設備やシステムの統合に伴う技術的な不整合や、技能者の流出リスク、そして電気通信事業法などに基づく行政手続きの遅延といった課題が伴います。これらを回避するためには、事前の技術調査やPMI計画の明確化、従業員との丁寧な対話による信頼構築、そして専門家を交えた許認可対応など、周到な準備と対策が欠かせません。
通信インフラ業界において事業承継を成功させるためのM&Aポイント
通信インフラ業界では、経営者の高齢化と後継者不足が深刻化する中、第三者承継としてのM&Aが現実的な選択肢となっています。事業承継型M&Aを成功させるには、業界特有の構造や技術要素に配慮した以下のポイントが重要です。

1. 早期の承継準備と情報整理
通信インフラ業は、設備や工事許可、行政への届出、技術ライセンスなど多くの専門情報を抱える業界です。譲渡側企業は、財務・契約・技術・許認可などの情報を早期に整理し、買い手が判断しやすい状態を整備することが不可欠です。これにより、信頼性の高いデューデリジェンス(調査)につながります。
2. 技術・人材の継承体制の構築
通信インフラの現場では、熟練の施工技術者やネットワークエンジニアの経験値が企業価値そのものといっても過言ではありません。M&Aにおいては、単に企業を譲渡するだけでなく、技術・人材・顧客対応体制まで含めた承継計画(PMI)を立てることが成功の鍵となります。
3. 業界理解のあるアドバイザーの活用
通信インフラ業界には、電気通信事業法、建設業法、道路占用許可など、業界特有の法規制・行政手続きが存在します。これらの手続きに精通した専門家を伴走させることで、円滑かつ確実な承継が実現できます。とくに、M&A後の運営に影響するライセンスの名義変更や協定書の承継には注意が必要です。
4. 従業員・取引先への丁寧な説明と信頼構築
M&Aを通じた事業承継では、従業員の不安や離職リスク、既存取引先との関係悪化が懸念されます。そのため、譲渡側・譲受側が連携し、事前の説明会や引継ぎ面談を通じて信頼を築くことが重要です。特に地域密着型の通信会社では、「誰が運営を引き継ぐか」という信用が存続可否に直結します。
通信インフラ業界の今後の展望
通信インフラ業界は、社会のデジタル化に伴い、その重要性をますます高めています。今後の展望について、以下の5つの視点から整理します。
技術革新に伴うネットワーク需要の拡大
5G、ローカル5G、クラウド、IoTなどの普及により、通信速度・容量・安定性への期待が急速に高まっています。これに対応するため、ネットワークの高度化やデータセンターの整備が引き続き拡大する見通しです。
【出典元:一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)「通信機器中期需要予測[2024-2029年度]」】
地方の通信インフラ整備と地域格差の是正
リモートワーク、遠隔医療、スマート農業などの広がりにより、地方においても高品質な通信インフラへの需要が顕在化しています。自治体と民間企業が連携した整備プロジェクトも増加しており、地域間格差の是正が重要なテーマとなっています。
【出典元:国土交通省「ITへの取組み」アンケート調査結果】
巨額な設備投資とそれに伴う再編の加速
通信インフラ整備には膨大な資金と長期の回収期間が必要です。このため、中小事業者単独での継続が難しくなり、大手や他業種との連携・統合が進むと予想されます。M&Aを通じた経営資源の集約が今後さらに加速していくと予想されています。
【出典元:中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」】
クロスインダストリー連携の進展
防災、エネルギー、医療、教育といった他産業との融合が進み、通信インフラは単なる回線提供ではなく、社会全体の情報基盤としての役割を担うようになっています。例えば、スマートシティの構築や公共交通との連携も、今後の注目分野です。
政府支援と制度整備による成長促進
国は、デジタル田園都市国家構想などを通じて、地方通信網の整備や光ファイバー敷設への補助金制度を推進しています。制度的な後押しにより、インフラ整備が加速する一方で、法制度への適応も企業に求められるようになるでしょう。
【出典元:経済産業省「次世代デジタルインフラの構築」】
まとめ│事業承継×通信インフラ業界
通信インフラ業界は、5G・クラウド・ローカル5G・IoTといった技術の進展を背景に、社会・産業の基盤を支える「不可欠なインフラ」としての重要性を一層高めています。その一方で、地方を中心とした中小通信工事会社や地域インターネットプロバイダでは、経営者の高齢化と後継者不在という喫緊の課題が浮き彫りとなっています。
このような状況下で、M&Aは単なる企業売却ではなく、地域の通信網やノウハウ、技術者の技能を未来につなぐ“社会的承継手段”として注目されています。通信インフラは他業界に比べて専門性が高く、事業承継には高度な技術継承・法規制対応・許認可移管といった複雑なプロセスが伴います。そのため、業界特化の視点で進めるM&A戦略こそが成功の鍵となります。
さらに、災害対応力の強化や地方のデジタル化といった社会的ニーズの高まりにより、インフラの継続性・地域密着性を確保できる企業が求められる時代に突入しています。こうした環境変化においては、「売る側・買う側」双方が未来の地域インフラの担い手としての視点を持ち、共創的な承継を志向することが極めて重要です。
担当コンサルタント紹介
たすきコンサルティングでは、IT業界に精通した専門コンサルタントが、貴社のニーズに合わせた最適な事業承継支援を提供しております。後継者選定から経営資源の引継ぎまで、専門的なサポートで貴社をバックアップいたします。

業界特化法人部 シニアコンサルタント
古川 龍也
京都大学大学院卒、メガバンクに入行し、法人融資・企業調査業務に従事。グループ証券会社に出向し、M&A業務を経験。2021年1月にたすきコンサルティングに入社し、多数の会社を成約に導く。
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