【業界記事】2025年最新│EC業界におけるM&Aの最新動向と成功事例を解説

近年、EC業界では市場の拡大とともに、事業承継や成長戦略の一環としてM&Aが活発化しています。特に、後継者問題を抱える中小企業や、デジタルシフトを進める大手企業にとって、M&Aは重要な選択肢となっています。本記事では、EC業界におけるM&Aの最新動向と成功事例を解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済み
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済み
目次
EC業界とは?
EC(Electronic Commerce)業界とは、インターネットを通じて商品やサービスの売買を行うビジネス全般を指します。日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、2023年に24.8兆円と前年比9.23%増加し、EC化率も9.38%に達しています。

【出典元:経済産業省「電子商取引に関する市場調査」】
EC業界の課題と事業承継問題
EC業界は市場拡大の一方で、次のような課題に直面しています。
競争の激化と差別化の難しさ
EC市場には大手モール型サイト(Amazon、楽天など)に加え、独自ドメインのD2Cブランドや個人EC事業者が参入し、競争が年々激しくなっています。広告コストの上昇やSEO対策の複雑化により、中小事業者が売上を安定させるのは容易ではありません。
人材不足と属人化のリスク
EC運営には商品管理、受注処理、カスタマー対応、SNS運用など多様な業務が存在します。少人数体制での運営が多いため、特定の社員や経営者に業務が集中し、業務継続のリスクが高まっています。業務マニュアルが整備されていない企業も少なくありません。
後継者不在と将来不安
多くのEC事業は創業者自身が現場を回しているケースが多く、経営者の高齢化とともに後継者問題が顕在化しています。「利益は出ているが、継ぐ人がいない」という理由で、事業をたたむ選択を迫られる事例も増えています。
EC業界のM&A動向
EC業界におけるM&Aの主な動向は以下の通りです。
- 中小企業の売却増加
- 大手企業の買収戦略
- 越境ECの拡大
近年、EC業界では事業承継や成長戦略の一環としてM&Aが活発化しています。特に中小企業では、後継者不在や資金調達の難しさを背景に、事業売却を選択するケースが増加しています。一方で、大手企業は新規市場への参入やデジタル領域の強化を目的として、中小EC事業者の買収を積極的に進めています。さらに、越境ECの需要拡大も追い風となっており、2023年の日本の越境BtoC-EC市場規模は4,208億円に達しました。こうした国際的な成長機会を捉えるため、海外企業とのM&Aも増加傾向にあり、グローバル展開を視野に入れた動きが加速しています。
【出典元:経済産業省「電子商取引に関する市場調査」】
EC業界のM&A成功事例
■ 株式会社ZOZOによるLYST LTDの完全子会社化(2025年)
株式会社ZOZOは、英国ロンドンに本社を置くファッションショッピングプラットフォーム「Lyst」を運営するLYST LTDの全株式を取得し、完全子会社化することを発表しました。この買収は、ZOZOのグローバル市場における成長戦略の一環として位置づけられています。
【出典元:株式会社ZOZO 公式プレスリリース】
■ 株式会社メルカリによる株式会社ソウゾウの吸収合併(2024年)
株式会社メルカリは、子会社である株式会社ソウゾウを吸収合併しました。ソウゾウは、メルカリの新規事業開発を担っており、この統合により、メルカリは新サービスの開発スピードを加速させ、組織の一体化を図りました。結果として、メルカリのサービス拡充とユーザー体験の向上に寄与しています。
【出典元:株式会社メルカリ 公式プレスリリース】
■ 楽天株式会社による株式会社Fablicの買収(2016年)
楽天株式会社は、フリマアプリ「FRIL(フリル)」を運営する株式会社Fablicを買収しました。このM&Aにより、楽天は若年層女性ユーザーを中心とした新たな顧客層を獲得し、C2Cマーケットプレイス事業を強化しました。また、楽天の既存サービスとのシナジーを生み出し、EC事業全体の拡大に成功しています。
【出典元:楽天株式会社 公式プレスリリース】
EC業界におけるM&Aのメリット
■ M&Aのメリット
- 事業承継の円滑化
- スピーディな市場拡大
- シナジー効果の創出
M&Aを活用することで、たとえば後継者不在に悩む中小EC事業者が、自社のブランドや運営体制を維持しながら円滑に事業承継を進めることができます。買い手にとっては、売却企業が持つ既存の顧客基盤、ECモールでの販売実績、在庫管理システムや物流網などをそのまま活用することで、新規分野へのスピーディな参入が可能になります。また、売り手が築いた独自のブランド力や商品企画力と、買い手が持つ広告運用ノウハウやシステム開発力を組み合わせることで、業績向上や顧客満足度の向上といったEC業界特有のシナジー効果も見込まれ、両社にとって大きな成長機会となります。
■ M&Aのリスクと対策
- 文化の違いによる統合の難しさ
- 情報漏洩のリスク
- 法的・税務的な問題
M&AはEC業界においても有効な成長・承継手段ですが、成功にはいくつかのリスクを理解し、対策を講じることが不可欠です。まず、買収側と被買収側で企業文化や業務の進め方が大きく異なる場合、チームの連携がうまくいかず、統合後の運営に支障をきたすことがあります。特にEC事業では、スピード感やブランド方針に対する感覚の違いがトラブルの原因になることもあります。また、顧客情報や取引データなど機密性の高い情報を多数扱うため、情報漏洩のリスクも高く、契約書の整備やアクセス権限の管理が重要です。さらに、EC業界ではキャンペーン施策やポイント制度など独自の会計処理が行われていることも多いため、法的・税務的な確認が不十分だと、買収後に想定外の債務や課税リスクが発生する可能性があります。これらのリスクを最小限に抑えるためには、事前のデューデリジェンスを徹底し、専門家の支援を得て契約や統合計画を入念に準備することが重要です。
EC業界において事業承継を成功させるためのM&Aポイント
EC業界におけるM&Aによる事業承継を成功させるには、単に株式を譲渡するだけでなく、日々の運営に根ざした実務的なポイントを押さえることが不可欠です。特にECならではの無形資産やデジタル運用体制の引き継ぎは、成功と失敗を分ける大きな要因となります。以下に、承継成功のために重要な3つの視点を紹介します。

1. データ資産と運用ノウハウの棚卸し・構造化
EC業界では、アクセス解析・購買履歴・会員情報・広告データなど、膨大なデータ資産が企業価値に直結します。これらが属人的に管理されていたり、ツールごとに分断されていると、買い手企業にとっては事業の継続性が不透明となり、評価が下がる要因になります。事業承継を見据えたM&Aでは、Google AnalyticsやShopify、MAツール等の運用状況を明文化し、データの蓄積・活用フローを整理しておくことが不可欠です。
2. ブランドコミュニケーションと顧客ロイヤルティの「見える化」
EC事業では、顧客との継続的な接点を持ち、ブランドファンを育ててきた履歴が事業の本質的な価値になります。たとえば、「レビュー評価の傾向」「定期購入の継続率」「LINE・Instagram等のエンゲージメントデータ」などは、買い手企業がブランドの将来性を判断するうえで極めて重要です。これらを単なる“感覚”ではなくKPIとして数値化し、買い手が引き継げる形で提示することが、承継成功の鍵となります。
3. 運営チーム・外注先を含めた体制のトランスファラビリティ
自社ECサイトはもちろん、楽天・Amazonなど複数チャネルを持つ事業者では、「誰が何を担っているのか」がブラックボックス化しやすいのが現状です。たとえば、在庫連携は外注しているが、データ修正は自社スタッフが手動で対応しているといったケースです。事業承継においては、業務プロセスごとに「内製/外注」「属人/マニュアル化」の区分けを行い、引き継ぎ可能な体制かどうかを可視化する必要があります。これにより、買い手側がスムーズに運営を引き継ぎやすくなり、M&Aの成功率も高まります。
EC業界の今後の展望
AIやIoTの活用によるパーソナライズと業務最適化の加速
経済産業省の報告書によれば、EC業界ではAIやIoTの導入が進み、顧客一人ひとりに最適化された商品提案や、在庫管理・物流の効率化が実現されています。例えば、AIを活用したレコメンドエンジンにより、顧客の購買履歴や閲覧履歴を分析し、個々の嗜好に合った商品提案が可能となっています。また、IoT技術を活用したスマートデバイスとの連携により、在庫管理や物流の最適化が進み、配送の迅速化やコスト削減が図られています。これらの技術革新により、顧客満足度の向上と企業の競争力強化が期待されています。
【出典元:みずほリサーチ&テクノロジー株式会社「サプライチェーンにおけるデジタル技術活用実態等調査」】
サステナビリティへの対応と環境配慮型商品の需要増加
近年、環境問題への関心の高まりから、サステナブルな商品やサービスへの需要が増加しています。経済産業省の報告書では、企業が環境配慮型商品の開発や、エコフレンドリーな包装材の使用、カーボンオフセットの導入など、持続可能な取り組みを進めていることが示されています。また、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)への対応が投資家からも注目されており、サステナビリティへの取り組みが企業価値の向上につながっています。
【出典元:EY新日本有限責任監査法人「サステナビリティ情報開示の海外動向調査」】
越境ECの拡大とグローバル競争の激化
経済産業省の「令和5年度 電子商取引に関する市場調査」によると、日本の越境BtoC-EC市場規模は4,208億円に達し、前年から増加しています。特に中国市場において、日本製品への需要が高まっており、越境ECを通じた取引が活発化しています。このような国際的な市場拡大により、企業はグローバルな競争環境に対応するため、商品開発やマーケティング戦略の見直しが求められています。
【出典元:経済産業省「令和5年度 電子商取引に関する市場調査」】
まとめ│事業承継×EC業界
EC業界は今なお成長を続ける一方で、競争激化や人材不足、後継者不在といった深刻な課題にも直面しています。とりわけ中小規模のEC事業者においては、将来の事業継続に不安を抱えながら日々の運営を続けているケースも少なくありません。
こうした背景の中で、M&Aは単なる「売却手段」ではなく、事業を次世代に引き継ぎ、ブランドや顧客基盤を未来に残すための有効な手段として注目を集めています。特に、EC業界特有の資産——たとえば顧客データ、運営ノウハウ、ブランド価値、物流体制など——を可視化し、体系的に移管することで、買い手とのシナジーを生み出し、両社にとって成長の機会を創出することが可能です。
今後、AIやIoT、サステナビリティ、越境ECなどの新たな潮流にどう向き合い、どのように価値ある形で事業を承継していくかが、経営者にとっての重要なテーマとなります。M&Aはその第一歩となる選択肢です。適切な準備と信頼できる専門家の支援を得て、EC事業の未来を確かなものにしていきましょう。
担当コンサルタント紹介
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業界特化法人部 シニアコンサルタント
古川 龍也
京都大学大学院卒、メガバンクに入行し、法人融資・企業調査業務に従事。グループ証券会社に出向し、M&A業務を経験。2021年1月にたすきコンサルティングに入社し、多数の会社を成約に導く。
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IT業界を取り巻く環境は大きな変化を迎えています。人材不足や市場競争の激化、事業承継の課題など、多くの経営者様が将来への不安を抱えていらっしゃいます。
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