【業界記事】2025年最新│SIer業界でM&Aが加速する理由とは?成功事例と事業承継戦略を徹底解説

IT化の波が加速する中、SIer業界でもM&Aが活発化しています。中小規模のSIer企業では、経営者の高齢化や人材確保の難しさといった課題から、事業承継を目的としたM&Aのニーズが高まっています。本記事では、SIer業界の市場動向、課題、M&A成功事例を踏まえ、事業承継のために押さえるべきポイントを詳しく解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済み
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済み
目次
SIer業界とは?
SIerとは「System Integrator(システムインテグレーター)」の略称で、企業向けにITシステムの設計・開発・運用までを一括で請け負う事業者を指します。顧客の業務課題を解決するために、ソフトウェアやハードウェアを組み合わせて最適なITソリューションを提供するのが主な役割です。
SIer業界には、NTTデータや富士通といった大手から、特定業界や地域に特化した中小SIerまで多様なプレイヤーが存在し、企業のデジタル化推進を支える重要な役割を担っています。
SIer業界の課題と事業承継問題
SIer業界は以下のような課題を抱えています。
人材不足
経済産業省の報告によれば、日本のIT人材不足は深刻化しており、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予測されています。
【出典元:経済産業省「IT分野について」】
経営者の高齢化と後継者不足
2024年の調査によると、情報通信業における後継者不在率は77.32%で、全産業の中で最も高い数値となっています。代表者が比較的若い企業が多く含まれており、現時点では後継者を選定する必要がないと考えられることが、不在率の高さの一因とされています。
【出典元:東京商工リサーチ「2024年「後継者不在率」調査」】
多重下請け構造による利益率の低下と技術力の停滞
SIer業界では、多重下請け構造が一般的であり、大手SIerが受注したプロジェクトを中小SIerへと再発注することが一般的です。この構造の影響により、下流の中小SIerや個人事業主は、納期の短縮や予算の圧縮などのプレッシャーが強くのしかかり、利益率も低くなりがちで、労働環境が過酷になる傾向があります。
SIer業界のM&A動向
2023年以降、SIer業界ではM&Aの動きが一段と活発化しています。その背景には、人材不足や経営資源の最適化、事業承継の必要性など、複数の要因が絡んでいます。主な動向は次の3点です。
- M&A件数の増加
- 大手企業による中堅SIerの買収
- 人材確保を目的としたM&A
2023年から2025年にかけて、SIer業界ではM&Aが加速しています。その背景には、慢性的なIT人材不足や中小企業の事業承継ニーズの高まりがあり、IT業界全体のM&A件数は毎年増加しています。特に目立つのが、大手SIerによる中堅企業の買収です。専門性や顧客基盤を持つ企業をグループに取り込むことで、技術力の強化や新規領域への展開を図っています。また、単なる事業統合にとどまらず、エンジニアを獲得する目的でのM&A、いわゆる「アクイハイアリング」も活発化しており、M&Aが人材戦略の一環として重要な位置を占めるようになっています。
SIer業界のM&A成功事例
■ NTTによるNTTデータグループの完全子会社化(2025年)
2025年、NTTはNTTデータグループを完全子会社化するためのTOB(株式公開買付)を実施しました。これにより、グループ内のシナジー効果を高め、競争力の強化を図っています。
【出典元:NTT ニュースリリース】
■ 富士ソフトによるヴィンクスの完全子会社化(2023年)
2023年11月、富士ソフト株式会社は、流通業向けソリューションを提供する株式会社ヴィンクスを含む上場子会社4社を完全子会社化するための公開買付けを実施しました。この統合により、富士ソフトはグループ全体のシナジーを強化し、顧客への提供価値の向上を目指しています。
【出典元:富士ソフト ニュースリリース】
■ NECによるアビームコンサルティングの完全子会社化(2015年)
2015年2月、NECは、コンサルティングサービスを提供するアビームコンサルティング株式会社を完全子会社化するため、簡易株式交換を実施しました。この統合により、NECはコンサルティングからシステム構築・運用までの一貫したサービス提供体制を強化し、DX推進を加速させる狙いがあります。
【出典元:NEC ニュースリリース】
SIer業界におけるM&Aのメリット
■ M&Aのメリット
- 人材確保
- 事業承継の円滑化
- 技術力の強化
SIer業界では、M&Aの活用が経営課題の解決や将来の成長戦略において、ますます重要性を増しています。
まず、SIer業界は上流工程を担えるエンジニアの慢性的な不足に直面しており、M&Aを通じて即戦力となる人材を確保することは、プロジェクト品質や納期の安定に直結します。次に、経営者の高齢化が進む中小SIerでは、後継者が見つからず廃業リスクを抱えるケースも多く、M&Aによる第三者への承継は、従業員や取引先の信頼を損なうことなくスムーズな事業継続を実現します。そして、買収先の持つクラウド、AI、セキュリティなどの専門技術を自社に取り込むことで、自社単独では難しい分野への展開やサービスの高度化が可能となり、競争力の向上につながります。
■ M&Aに伴うリスクと対策
- 企業文化の違い
- 従業員の離職
- 予期せぬ債務の発覚
SIer業界におけるM&Aは、事業承継や成長戦略の一環として有効な手段ですが、その一方で注意すべきリスクも存在します。まず、SIerごとに開発体制や働き方に大きな違いがあり、M&A後に業務の混乱を招くことがあります。これを防ぐには、統合初期からマネジメント主導で業務ルールのすり合わせを行うPMIが欠かせません。
また、技術者が価値の源泉であるSIerでは、経営の変化に不安を感じた従業員が離職するリスクもあります。特にプロジェクトリーダーの退職は顧客への影響も大きいため、処遇やキャリアの継続性を丁寧に説明することが重要です。
さらに、長期契約が多いSIerでは、M&A後に未払い債務や契約リスクが発覚する可能性があります。こうしたトラブルを防ぐには、事前のデューデリジェンスで財務や契約内容をしっかり確認しておく必要があります。
Sler業界において事業承継を成功させるためのM&Aのポイント
SIer業界では、経営者の高齢化と後継者不在が進む一方で、慢性的なIT人材不足や急速な技術変化への対応が求められています。こうした状況の中で、事業承継手段としてM&Aを活用するケースが増えています。成功に導くためには、以下の4つの視点が極めて重要です。

1.売却時期と案件内容の最適化
SIer企業は受託開発型のビジネスモデルが多く、プロジェクト単位の収益変動が大きいため、M&Aのタイミングによって企業評価が左右されやすい特徴があります。そのため、事業承継を意識し始めた段階から、売却の可能性や適切なタイミングを見据えて準備を始めることが大切です。半年〜1年以上の計画期間を確保することで、企業価値の最大化にもつながります。
2.SIer業界に精通した支援者を選ぶ
Ier業界は多重下請け構造や独自の契約慣行、技術特化型の人材構成など、一般企業とは異なる業界特性があります。こうした特殊性を理解せずに進めるM&Aは、評価ミスや交渉トラブルの原因になり得ます。業界に精通したM&A仲介会社やFA、IT法務に強い弁護士を活用することで、売却戦略の立案からクロージングまでの成功率が格段に高まります。
3.属人化の排除と収益構造の明確化
SIer企業では、プロジェクトごとに担当者依存が強く、業務がブラックボックス化しがちです。M&Aに向けては、属人化を排除し、業務マニュアルや顧客管理体制を整備することで、第三者から見た「引き継ぎやすさ」を高める必要があります。また、粗利率やエンジニア稼働率、リカーリング型収益(保守・運用)の割合など、買い手が重視する指標を整理しておくことが重要です。
4.離職防止と信頼形成
SIerにおいては「人」が最大の経営資源であり、特に上流工程に携わるエンジニアやプロジェクトマネージャーの離職は、顧客との信頼関係や継続案件に直結するリスクとなります。M&Aの進行時には、社員に対して丁寧な情報共有を行い、待遇や役割の継続性を明確に伝えることが不可欠です。買収企業との相互理解を深める場を設けるなど、心理的安全性の確保が成功の鍵を握ります。
Sler業界の今後の展望
SIer業界は、IT需要の高度化と経営環境の変化により、大きな転換期を迎えています。今後の展望と主要な市場動向を4つのポイントに分けて解説します。
DX・クラウド需要の拡大により成長が期待される
経済産業省の報告によれば、製造業向けSIerの業界活性化や魅力向上のために「業界の認知向上」(68.6%)が最も多く、次いで「ユーザー教育の強化」(46.5%)、「SIer間の情報共有の充実」(33.7%)が挙げられています。
【出典元:経済産業省「ものづくり中小・中堅企業の生産性向上(DX実現)に向けたSIer企業の役割に関する調査報告書」】
深刻な人材不足がボトルネックに
経済産業省の資料によれば、ITサービス市場は従来型の情報システム開発需要が減少する一方で、クラウド、モビリティ、ソーシャル、ビッグデータ/アナリティクス、さらにはIoT/AIに係るIT投資の伸びが予想されています。
【出典元:経済産業省「参考資料(IT人材育成の状況等について)」】
業界構造の変革も求められている
中小企業庁の白書によれば、我が国経済において期待される中小企業像は、中小企業基本法改正時から大きく変わっていないと考えられる。しかしながら、今後、中小企業はステークホルダーの求める価値観の変化を踏まえ、自社が社会の中で果たすべき役割を自ら見出していくことが期待される。
【出典元:中小企業庁「中小企業白書2019」第3部第1章】
M&Aによる事業承継・組織再編が進む
後継者不在や資源の限界に直面する中堅・中小SIerを中心に、M&Aを通じて人材・技術・顧客基盤を統合し、成長基盤を強化する動きが加速しています。買収側にとっても、特定分野に強みを持つ企業との統合は競争力向上につながり、今後さらに活発化する見通しです。
まとめ│事業承継 × Sler業界
SIer業界は、DX需要の高まりやクラウド技術の進化により、今後も成長が期待される分野です。しかし一方で、深刻な人材不足や経営者の高齢化、旧来の業界構造といった課題を抱えており、特に中堅・中小SIerでは「持続的な経営」の実現が難しくなりつつあります。
こうした中で、M&Aは単なる事業承継手段ではなく、「人材確保」「技術力強化」「企業価値の最大化」を同時に実現できる戦略的な選択肢として注目されています。実際に、近年では業界内外の企業による積極的なM&Aが進んでおり、再編と成長を同時に促す動きが加速しています。 事業承継を成功させるためには、早期の準備、専門家の活用、企業価値の可視化、そして従業員との丁寧な対話が不可欠です。SIer業界特有の技術的・人材的特性を踏まえたうえで、戦略的にM&Aを活用することで、次世代への確かなバトンをつなぐことが可能になります。
担当コンサルタント紹介
たすきコンサルティングでは、IT業界に精通した専門コンサルタントが、貴社のニーズに合わせた最適な事業承継支援を提供しております。後継者選定から経営資源の引継ぎまで、専門的なサポートで貴社をバックアップいたします。

業界特化法人部 シニアコンサルタント
古川 龍也
京都大学大学院卒、メガバンクに入行し、法人融資・企業調査業務に従事。グループ証券会社に出向し、M&A業務を経験。2021年1月にたすきコンサルティングに入社し、多数の会社を成約に導く。
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