【業界記事】2025年最新│サイバーセキュリティ業界のM&A最新動向|事業承継を成功に導く方法と実例

サイバーセキュリティ業界は、デジタル化の進展とともに急速な成長を遂げています。しかし、技術革新のスピードや人材不足、事業承継の難しさなど、さまざまな課題も抱えています。本記事では、サイバーセキュリティ業界におけるM&Aの最新動向や成功事例を紹介し、事業承継を成功させるためのポイントを解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済み
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済み
目次
サイバーセキュリティ業界とは?
サイバーセキュリティ業界は、情報システムやネットワークの安全を確保するための技術やサービスを提供する分野です。近年、IoTの普及やリモートワークの拡大により、サイバー攻撃のリスクが高まり、セキュリティ対策の重要性が増しています。経済産業省も「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク」を策定し、産業界全体でのセキュリティ強化を推進しています。
【出展元:経済産業省「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク」】
サイバーセキュリティ業界の課題と事業承継問題
サイバーセキュリティ業界では以下のような課題が顕在化しています。
人材不足
サイバーセキュリティ業界では、急増するサイバー脅威に対応するために高度な専門知識を持つ人材が求められています。しかし、その需要に対して供給が追いついておらず、特に中小企業では有能なセキュリティ人材の採用・定着が大きな課題となっています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査によれば、日本国内の情報セキュリティ人材は今後さらに不足すると見込まれており、各企業は自社のセキュリティ体制を維持することすら困難になる恐れがあります。
技術の陳腐化
サイバー攻撃の手法は年々巧妙化・多様化しており、それに対抗するセキュリティ技術やソリューションも急速に進化しています。このような状況下では、既存の技術やサービスがすぐに時代遅れになるリスクが高く、継続的な投資や開発が求められます。特に資金力や技術開発力に乏しい中小企業では、最新の脅威に対応できる体制を整えるのが難しく、結果的に競争力を失ってしまうケースも少なくありません。
事業承継の難しさ
サイバーセキュリティ企業は、創業者や経営者が高度な専門技術や人脈、顧客基盤を直接担っているケースが多いため、事業承継が極めて難しいとされています。後継者が技術や知識を十分に引き継げなければ、事業の継続性や信用力にも影響を与えかねません。また、情報セキュリティ業務は信頼性が極めて重要であるため、承継時の経営体制の変化に対する取引先の不安感も乗り越える必要があります。
サイバーセキュリティ業界のM&A動向
サイバーセキュリティ業界では、以下のようなM&Aの動きが見られます。
- 大手企業によるスタートアップの買収
- 業界再編
- 海外展開の加速
近年のサイバーセキュリティ業界では、急速に高度化するサイバー脅威への対応力を強化するために、大手企業がAI分析やクラウド型防御システムなどの革新的技術を持つスタートアップを買収する動きが活発化しています。また、同業種間の統合や提携による業界再編も進行しており、リソースの共有やコスト削減による競争力の向上が図られています。さらに、欧米やアジア市場における需要拡大を背景に、海外企業とのM&Aを通じたグローバル展開も加速しており、サイバーセキュリティ企業にとってM&Aは技術力・市場シェア・地域展開の全てを一度に強化できる重要な戦略手段となっています。
サイバーセキュリティ業界のM&A成功事例
■ デロイトトーマツによるストーンビートセキュリティのグループ参画(2024年)
デロイト トーマツ グループは、サイバーセキュリティ専門企業であるストーンビートセキュリティ株式会社をグループに迎え入れました。この統合により、デロイト トーマツは、サイバーインテリジェンスやデジタルフォレンジック分野での専門性を強化し、インシデントレスポンス体制の充実を図っています。また、両社の知見と教育コンテンツの共有を通じて、社内人材の育成や「デロイト トーマツ サイバーアカデミー」のサービス拡充にも取り組んでいます。
【出典元:デロイトトーマツグループ ニュースリリース】
■ サイバーセキュリティクラウドによるソフテックの子会社化および吸収合併(2020年12月・2022年4月)
サイバーセキュリティクラウドは、脆弱性情報収集・管理ツール「SIDfm™」を提供するソフテックの全株式を取得し子会社化。その後、2022年4月にソフテックを吸収合併し、Webセキュリティのトータルソリューションカンパニーとしての体制を強化した。
【出展元:サイバーセキュリティクラウドプレスリリース】
■ サイバートラストによるリネオソリューションズの完全子会社化(2020年5月)
サイバートラストは、組込みLinux開発に強みを持つリネオソリューションズの全株式を取得し、完全子会社化。これにより、IoT事業の拡大とLinux/OSS技術を核としたセキュリティソリューションの強化を図る。
【出展元:サイバートラストプレスリリース】
■ VeeamによるCovewareの買収(2023年)
データ保護ソリューションを提供するVeeamは、2023年に米国のサイバーセキュリティ企業Covewareを買収しました。Covewareは、ランサムウェア攻撃に対するインシデントレスポンスを専門とする企業であり、この買収によりVeeamはランサムウェアリカバリと初期対応機能を強化しました。これにより、顧客に対してより包括的なデータ保護とサイバーセキュリティソリューションを提供できる体制を構築しました。
【出典元:Veeam公式プレスリリース】
■ CrowdStrikeによるHumioの買収(2021年)
2021年2月、クラウドベースのエンドポイント保護を提供するCrowdStrikeは、高性能なクラウドログ管理および可観測性技術を持つHumioを約4億ドルで買収しました。この買収により、CrowdStrikeはeXtended Detection and Response(XDR)機能を強化し、あらゆるログやアプリケーションデータからのインサイトをリアルタイムで提供する能力を獲得しました。
【出典元:CrowdStrike公式プレスリリース】
サイバーセキュリティ業界におけるM&Aのメリット
■ M&Aのメリット
- 技術力の強化
- 市場シェアの拡大
- 人材の確保
サイバーセキュリティ業界におけるM&Aは、企業の競争力を大きく高める手段となっています。まず、高度な検知技術やAI解析能力を持つ企業を取り込むことで、既存サービスのセキュリティ性能を強化し、新たな脅威にも迅速に対応できるようになります。次に、M&Aを通じて異なる市場や顧客基盤を持つ企業を傘下に収めることで、市場シェアを拡大し、競争優位性を確立することが可能です。さらに、セキュリティ人材の採用難が深刻化する中で、熟練した技術者や専門家を確保できる点も、M&Aの大きなメリットといえるでしょう。これらの要素を戦略的に活用することで、企業はより持続的な成長とサービスの高度化を実現できます。
■ M&Aのリスクと対策
- 文化の違いによる統合の難しさ
- 人材の流出
- 技術の統合の難しさ
サイバーセキュリティ業界におけるM&Aでは、多くのメリットがある一方で、慎重な対応を要するリスクも存在します。まず、買収企業と被買収企業の組織文化や価値観が大きく異なる場合、統合後の意思疎通や業務遂行に支障が生じやすく、PMI段階でのトラブルに発展するリスクがあります。次に、キーパーソンとなるエンジニアやリサーチャーがM&Aを契機に離職するケースも多く、技術継承やサービス継続に悪影響を及ぼすおそれがあります。また、高度に専門化されたセキュリティ技術やインフラを持つ企業を統合する場合、システム間の互換性や開発プロセスの違いによって、統合プロジェクトが想定以上に難航する可能性もあります。
これらの課題に対しては、事前の十分なデューデリジェンスに加え、組織文化の融合を見据えた統合計画の策定、重要人材へのインセンティブ設計や技術面での段階的な統合作業の計画など、戦略的な対応が求められます。
サイバーセキュリティ業界において事業承継を成功させるためのM&Aポイント
サイバーセキュリティ業界では、高度な専門技術や人材、信頼性が企業価値の中核を占めています。そのため、事業承継を成功させるには、単なる株式の引き渡しだけでなく、「技術」と「信頼」の円滑な継承が不可欠です。ここでは、M&Aを活用して事業承継を進める際に特に重要となる4つのポイントをご紹介します。

1. 技術資産と知的財産の棚卸し
サイバーセキュリティ企業においては、独自のアルゴリズムや検知ロジック、ソースコード、商標・特許などの知的財産が事業の核心を担っています。M&Aの前には、こうした資産の権利状況を明確にし、第三者にも分かる形で整理しておくことが不可欠です。
2. キーパーソン技術者の意向確認と引き留め策
高度な専門知識を持つ技術者や研究者の存在は、企業価値の一部といえます。承継にあたっては、彼らのキャリア志向や不安を丁寧に把握し、報酬制度やポジション面での配慮、ストックオプション等のインセンティブ設計により、離職リスクを最小限に抑える工夫が求められます。
3. 顧客・取引先との信頼関係の維持
サイバーセキュリティ事業は機密性の高い情報を扱うため、顧客との信頼が非常に重要です。M&Aの影響で契約解消や不安を招かぬよう、買収先のブランド力や提供体制の継続性について十分に説明し、関係維持のためのコミュニケーションを欠かさないことが肝要です。
4. 規制・法令遵守の引き継ぎ
個人情報保護法やサイバーセキュリティ関連のガイドラインなど、法規制が多いこの業界では、承継後のコンプライアンス体制にも注意が必要です。ライセンス契約や許認可の引き継ぎ状況を明確にし、法的リスクを回避するための準備を整えておきましょう。
サイバーセキュリティ業界の今後の展望
サイバーセキュリティ業界は、今後も以下のような展望が期待されます。
市場の拡大と投資の活発化
サイバーセキュリティ市場は拡大傾向にあり、特に大企業においてセキュリティへの投資や製品・サービスの活用が活発化しています。
政府もソフトウェアやIoT製品、サプライチェーンセキュリティに関する政策(例:認証制度、各種ガイドライン)を講じており、産業界におけるセキュリティ対策の必要性やニーズは高まることが予想されます。
【出典元:経済産業省「サイバーセキュリティ産業振興戦略」】
サプライチェーンセキュリティの強化
近年、サプライチェーンに起因するサイバーインシデントが増加しており、企業の取引においてもサイバーセキュリティ対策の担保が求められています。
【出典元:経済産業省「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」】
人材育成と国際展開の推進
高度な専門人材の育成プログラムの拡充や、セキュリティ人材のキャリア魅力の向上・発信が進められています。また、海外展開を支援し、標準化戦略を促進することで、関係国との企業・人材交流を促進しています。
【出典元:経済産業省「サイバーセキュリティ産業振興戦略」】
セキュリティ・バイ・デザインの重要性
情報システムに対して効率的にセキュリティを確保するため、企画から運用まで一貫したセキュリティ対策を実施する考え方(セキュリティ・バイ・デザイン)が重要視されています。
政府情報システムにおいても、セキュリティ対策を確実かつ効率的に実装するため、システム開発の上流工程からセキュリティ対策を実装する取り組みが進められています。
【出典元:デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」】
ゼロトラストアーキテクチャの導入
クラウドサービスの利活用が進む中、従来の境界型セキュリティモデルから、すべてのアクセスを検証するゼロトラストアーキテクチャへの移行が求められています。
デジタル庁は、政府情報システムにおけるゼロトラストアーキテクチャの適用方針を示し、属性ベースアクセス制御に関する技術レポートを公開しています。
【出典元:デジタル庁「ゼロトラストアーキテクチャ 適用方針」】
【出典元:デジタル庁「ゼロトラストアーキテクチャ適用方針における属性ベースアクセス制御に関する技術レポート」】
まとめ│事業承継×サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティ業界は、技術革新と脅威の高度化が進む中で、事業承継においてもスピードと柔軟性が求められる時代に突入しています。特に、中小企業における後継者不在や人材不足といった課題を解決する手段として、M&Aの重要性はますます高まっています。事業の信頼性と技術力を次世代に引き継ぐためには、計画的な準備と専門家のサポートが不可欠です。変化の激しいこの業界において、M&Aは持続的な成長と競争力強化を実現する最適な選択肢となるでしょう。
担当コンサルタント紹介
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業界特化法人部 シニアコンサルタント
古川 龍也
京都大学大学院卒、メガバンクに入行し、法人融資・企業調査業務に従事。グループ証券会社に出向し、M&A業務を経験。2021年1月にたすきコンサルティングに入社し、多数の会社を成約に導く。
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