M&Aにおける必要書類「意向表明書」(LOI)とは?事業承継で後悔しないための注意点を解説
M&Aの初期段階で、買い手が売り手に対して「この会社を買収したい」という意志を文書で示す――それが「意向表明書」です。事業承継や会社売却を検討している経営者にとって、初めて受け取る“真剣な申し出”であり、買収交渉のスタート地点といえる重要書類です。
本記事では、意向表明書の役割や記載内容、提出タイミング、受け取った際の判断ポイント、基本合意書との違いについて、詳しく解説します。

目次
意向表明書とは?
意向表明書(LOI:Letter of Intent)とは、M&Aにおいて、買い手が売り手に対して「一定の条件で買収を進めたい」という意志を示す文書です。法的拘束力は通常ありませんが、誠実な交渉姿勢を示すものとして、売り手からの信頼を得る重要な要素になります。
意向表明書の目的と役割
- 買収意思の明文化
- 交渉の優先権を獲得する(例:独占交渉権)
- デューデリジェンスの実施許可を得る
- 譲渡条件の大枠をすり合わせる
売り手にとっては「どこまで本気か」を測る指標であり、買い手にとっては「信頼されるための最初のアクション」です。
意向表明書の主な記載内容
意向表明書に記載する主な項目は以下のとおりです。
項目 | 説明 |
---|---|
買い手企業の企業概要 | 商号/代表者氏名/所在地/事業内容/沿革/資本金/財務状況/グループ概要/関連会社 など |
M&Aのスキーム | 株式譲渡/事業譲渡 など |
譲渡価格の目安 | 金額レンジや算定方法の例示 |
買収の目的 | シナジー、成長戦略、エリア拡大 など |
デューデリジェンスの希望 | 実施の範囲、時期、担当者 |
今後の進行スケジュール | 合意→DD→契約→クロージング |
独占交渉の申し入れ | 他社との交渉を制限する意志(独占交渉権の付与) |
秘密保持の再確認 | NDAに基づいた扱いを再確認 |
拘束力の有無 | 原則なし。ただし一部条項は拘束可能 |
提出タイミングとM&Aの流れの中での位置づけ
ノンネーム資料 → NDA締結 → 企業概要書(IM)提示
↓
★意向表明書(LOI)提出 ※買い手から最初の意思表示
↓
基本合意書(MOU)締結 → デューデリジェンス(詳細調査) → 最終契約(クロージング)
意向表明書と基本合意書の違い
意向表明書は「まだ検討段階」の書面で、複数の買い手候補から提示されることが多いです。
一方で、基本合意書は「本格交渉に入る相手が決まり、デューデリジェンスや契約書作成に向けて進む合意書」であり、実質的に“最終契約の直前ステップ”として扱われます。
項目 | 意向表明書(LOI) | 基本合意書(MOU) |
---|---|---|
目的 | 買い手の意思表示と交渉開始の意思表明 | 譲渡条件やスケジュールについての仮合意 |
タイミング | 初期段階(企業概要書の確認後) | デューデリジェンス前または中盤 |
提出者 | 原則として買い手が提出 | 売り手と買い手の双方で締結 |
法的拘束力 | 原則なし(一部条項は拘束あり) | 一部拘束あり(排他条項、秘密保持など) |
記載内容の詳細度 | 概要レベル(希望条件、価格帯、スキームなど) | より具体的な条件(価格、引継ぎ方法、スケジュール) |
交渉の重み | スタート地点としての意思表明 | 成約に向けた土台となる前提合意 |
秘密保持・独占交渉 | 必要に応じて盛り込まれることもある | 原則、盛り込まれる |
作成・提出時の注意点(買い手側)
- 提案条件は実現可能な範囲に絞る(撤回リスク防止)
- 自社の強みや買収意欲を明記する(選定されやすくなる)
- 将来のシナジーや従業員の処遇などに触れると誠意が伝わる
- 秘密保持や独占交渉の希望は明確に記載する
- 拘束力の範囲を曖昧にしない
意向表明書を受け取った際の判断ポイント(売り手側)
意向表明書は、買い手企業が「この条件で買収を検討したい」と意思表示する書面です。しかし、そこに書かれた内容が「本当に信頼できるものか」「自社の希望に合致しているか」を見極めることが極めて重要です。以下のポイントに注目して判断しましょう。

① 金額条件が現実的か?
- 提示された「譲渡価格」が相場から極端にかけ離れていないか確認。
- 「高すぎる金額」は魅力的に見えますが、あとから修正される(=値下げされる)リスクも。
- 根拠(EBITDA倍率や直近実績など)に基づいた金額かどうかをチェックしましょう。
📌 ポイント:金額そのものよりも「説明責任のある提示」であるかが大切です。
② 買収スキームは妥当か?
- 株式譲渡、事業譲渡、合併など、スキームによって税務や従業員の取り扱いが変わります。
- 「株式譲渡」ならオーナーに直接資金が入りますが、「事業譲渡」は法人への支払いになるなど注意点も。
📌 ポイント:自社の税務・法務・経営状況に合ったスキームを選びましょう。
③ 買い手の信頼性・実績
- 会社の規模や財務内容だけでなく、過去のM&A実績、買収後の対応(PMI)などをチェック。
- 公開情報や紹介元のアドバイザーを通じてリサーチ可能です。
📌 ポイント:M&Aは「会社の未来を託す」こと。数字だけでなく「人」として信頼できるかが重要です。
④ 独占交渉の条項に注意
- 「この書面にサインすれば他の買い手と交渉できなくなる」ことがあるため、内容を慎重に確認。
- 期間が不当に長くないか(例:3ヶ月以上など)をチェック。
📌 ポイント:「独占交渉権」の有無・期間・解除条件は必ず確認を。
⑤ スケジュールは現実的か?
- 「1ヶ月で契約、翌月にクロージング」といったスピード感は本当に実現可能か?
- デューデリジェンスや役員・株主の調整時間を考慮する必要があります。
📌 ポイント:無理なスケジュールはトラブルの元。自社の準備状況と照らして判断を。
⑥ 譲渡後のビジョン・人員体制の記載があるか
- 従業員の雇用維持や、拠点の継続方針、ブランド使用可否などへの言及があるかもチェック。
- 「引き継ぎたい」という思いに寄り添っているかを見る視点が大切です。
📌 ポイント:価格だけでなく、“誰に託すか”を判断しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 意向表明書に署名は必要ですか?
→ 売り手側は署名不要です。買い手が提示し、売り手がそれを検討する流れが一般的です。
Q. 提出後に撤回はできますか?
→ 原則として可能。ただし、誠実性に欠ける場合はその後の信頼に影響するため注意が必要です。
Q. 拘束力がある場合の影響は?
→ 特定条項(排他交渉、秘密保持など)に法的拘束力を持たせると、売り手の選択肢を狭めることがあります。合意前に慎重に確認しましょう。
まとめ|意向表明書を正しく理解し、M&Aをスムーズに進めるために
意向表明書は、買収の「本気度」を売り手に伝える最初の機会です。単なる形式ではなく、誠意と戦略が込められた書面であるべきです。
売却を検討している経営者にとっては、受け取った意向表明書の中身を正しく読み解く力が求められます。金額だけでなく、買い手の姿勢・実行力・文化的相性など、トータルでの判断が成約の成否を分けます。意向表明書を「形式」として処理せず、内容から見える“本音”を読み取り、事業の未来を任せられる相手かどうかを見極めましょう。

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