M&Aにおける「基本合意書(MOU)」とは?役割・記載内容・注意点をわかりやすく解説

【2025年10月更新】

M&Aや事業承継の交渉において、買い手と売り手が「今後の取引をこの方向で進める」と合意した際に締結されるのが基本合意書(MOU)です。
M&Aにおける基本合意書(MOU)は、最終契約に至る前の“仮合意書”であり、譲渡価格の目安やスケジュール、独占交渉権の付与など、交渉の前提条件を明確にする重要な書面です。

特に中小企業の事業承継では、後戻りやトラブルを防ぐために、この基本合意書が果たす役割は非常に大きいといえます。
本記事では、基本合意書の意味と目的、意向表明書との違い、主な記載内容、締結時の注意点を、初めてM&Aに臨む経営者にもわかりやすく解説します。

基本合意書(MOU)とは

M&A交渉の方向性を確認するための“中間合意書”

基本合意書(MOU:Memorandum of Understanding)とは、M&Aの交渉が本格化する前段階で、売り手と買い手が「どのような条件・方針で取引を進めるか」を一時的に合意するための書面です。
最終契約のような法的拘束力は原則としてありませんが、両者の信頼関係を確認し、今後の交渉をスムーズに進めるための“道筋”を明文化する重要な資料です。

M&Aでは、意向表明書(LOI)を経て、交渉の本格化を前に「価格レンジ」「譲渡スキーム」「スケジュール」「独占交渉の有無」などを整理し、デューデリジェンス(買収監査)に進む準備を行います。
この時点で締結される基本合意書は、交渉の前提条件を揃え、認識のズレを防ぐ“共通の設計図”として機能します。

基本合意書の目的と役割

交渉の前提条件を整理し、方向性を明確にする

M&Aでは、価格レンジ、スキーム(株式譲渡・事業譲渡など)、今後のスケジュールなど多くの要素が同時並行で動きます。
これらを口頭で進めると認識のズレが生じやすく、後の工程でトラブルを招くことがあります。
基本合意書を交わすことで、交渉の基盤となる条件を文書化し、共通の理解を持ったうえで前進できる体制を整えます。

デューデリジェンス(買収監査)に進むための前提を固める

意向表明書(LOI)の後に実施されるデューデリジェンスは、企業の財務・法務・人事などを詳細に確認する重要プロセスです。
その前提として、基本合意書によって調査の目的・期間・実施範囲を明確化し、買い手と売り手双方が安心して次の段階に進めるようにします。

独占交渉権(排他条項)を設定し、交渉の集中化を図る

基本合意書には、特定の買い手に対して一定期間「独占的に交渉する権利」を付与する“排他条項”が盛り込まれることがあります。
これにより、売り手は複数の候補との並行交渉を停止し、買い手は安心してデューデリジェンスにコストと時間を投下できます。
交渉の集中化と効率化を実現する上で、基本合意書は欠かせない仕組みといえます。

信頼関係を構築し、スムーズな最終契約へとつなげる

M&Aは契約書面だけでなく、経営者同士の信頼が成否を分ける取引です。
基本合意書は、法的拘束力こそ限定的ですが、「誠実に交渉を進める意思」を形として示す資料となります。
これにより、双方の信頼が強まり、デューデリジェンスや最終契約交渉が円滑に進む可能性が高まります。

提出タイミングとM&Aプロセス

デューデリジェンスに進む直前が、基本合意書締結の最適タイミングです。

基本合意書(MOU)は、意向表明書(LOI)の提出後、双方の条件面で一定の合意形成ができた段階で締結されます。
「この方向性で最終契約に向けて進めていく」という共通認識を明確にするために交わされる書面であり、交渉の本格スタートを意味する重要なステップです。

このタイミングで、譲渡価格の目安・スキーム(株式譲渡、事業譲渡など)・スケジュール・デューデリジェンスの実施方針・排他交渉(独占交渉権)などが整理され、以降の詳細調査や契約交渉を円滑に進めるための“道筋”が定まります。

① ノンネーム資料の提示 

② 秘密保持契約(NDA)締結 

③ 企業概要書(IM)の開示・検討 

④ 意向表明書(LOI)の提出

⑤ 基本合意書(MOU)締結 

⑥ デューデリジェンス(買収監査) 

⑦ 最終契約(クロージング)

タイミングを誤るとリスクにつながる

基本合意書の締結を早すぎるタイミングで行うと、条件が固まらないまま排他条項(独占交渉)を設定してしまうリスクがあります。逆に、締結が遅すぎる場合は、交渉の方向性が曖昧なまま時間やコストを浪費することにもつながります。

したがって、理想的なタイミングは、
『意向表明書で条件が概ね合意し、デューデリジェンスに進む直前の段階』
このタイミングで締結することで、双方の理解が揃い、調査や契約交渉を効率的かつトラブルの少ない形で進められます。

基本合意書の主な記載項目

買い手・売り手双方が確認すべき内容を整理して明文化することが重要です。

基本合意書(MOU)には、今後の交渉を円滑に進めるために、双方が共通認識を持つべき条件や取り決めが明記されます。
この段階では、最終契約ほど細かい条項までは確定しませんが、取引の枠組みを共有するための“中間合意書”として重要な役割を果たします。

主な記載項目一覧

項目主な内容確認すべきポイント
譲渡スキーム株式譲渡、事業譲渡、合併など、取引の枠組みスキームによって税務・会計・人事処理が変わるため、初期段階で明確化が必要。
譲渡価格と算定根拠金額またはレンジ、EBITDA倍率などの算定方法「価格は協議中」とせず、目安レンジを提示し交渉基盤を整える。
③ デューデリジェンス
(買収監査)の実施方針
対象範囲(財務・法務・人事・IT等)、期間、責任者調査の目的と負担範囲を明記し、準備不足や誤解を防ぐ。
④ 排他交渉条項
(独占交渉権)
一定期間、他の買い手と交渉しない取り決め買い手は安心して調査投資でき、売り手は交渉を集中化できる。
スケジュール基本合意→調査→契約→クロージングまでの目安時期各工程の期間を明示し、交渉全体の流れを共有。
秘密保持条項情報漏えい防止に関する再確認既存のNDAを再確認し、適用範囲・期限・対象情報を整理。
解除条件・破談時の扱い合意破棄・交渉中止が可能な条件や費用負担不測の事態に備え、責任範囲や損害賠償要否を明記。
拘束力の有無全体は非拘束だが、一部(排他・秘密保持等)は拘束あり「一部拘束あり」と明確に示し、誤解やトラブルを防ぐ。

基本合意書を締結する際の注意点

曖昧な合意や拘束範囲の誤解はトラブルのもとになります。

基本合意書は、M&Aの交渉を本格化させるための“合意の枠組み”を示す重要な書面です。
しかし、内容を十分に精査せずに署名してしまうと、後々の交渉過程で「想定外の拘束」や「条件の食い違い」に発展するリスクがあります。
ここでは、締結時に特に注意すべき5つのポイントを整理します。

排他条項(独占交渉権)の期間と条件を明確にする

排他交渉条項は、売り手が一定期間、他の買い手と交渉しないことを約束するものです。
買い手にとっては安心してデューデリジェンスを進められる一方で、期間が長すぎると売り手側の交渉自由度を奪うことになります。

ポイント:一般的には「1~2ヶ月程度」が適正。延長や解除条件も必ず明記しましょう。
また、「排他違反時のペナルティ(損害賠償請求など)」の有無についても、事前確認が必要です。

曖昧な表現や未確定条件を残さない

「価格は今後協議」「条件は別途検討」など、あいまいな記載は後のトラブルの原因になります。
基本合意書の目的は“交渉の前提を固めること”にあるため、最低限の合意形成ができていない項目は記載を見送るか、明確な条件を添えるのが原則です。

ポイント:特に譲渡価格レンジ・スキーム・スケジュールは、曖昧なままにしないことが重要です。

法的拘束力の範囲を理解しておく

基本合意書全体は原則として法的拘束力を持ちませんが、
「排他交渉」「秘密保持」「損害賠償」「準拠法」など、一部の条項には法的拘束力が生じる可能性があります。
これらを誤って理解すると、「仮合意のつもりが実質的に拘束されていた」という事態にもなりかねません。

ポイント:各条項の拘束有無を文中で明確に区分し、必要に応じて専門家の確認を受けることが望ましいです。

デューデリジェンス(DD)の準備とスケジュールを実現可能に設定する

基本合意書に記載するスケジュールは、今後の実務に大きく影響します。
過度に短い期間設定や、社内リソースを超えたDD範囲を約束してしまうと、調査の遅延や信頼関係の悪化につながるおそれがあります。

ポイント:「期間」「範囲」「責任者」の3点を現実的に設定し、無理のない進行計画を立てましょう。

専門家による内容確認を行う

基本合意書は一見シンプルな書面ですが、条項の一言一句に法的意味が含まれています。
特に、排他期間・解除条件・損害賠償の文言は、後の契約交渉や裁判において大きな影響を及ぼすことがあります。

ポイント:弁護士やM&Aアドバイザーなど、M&A実務に精通した専門家のレビューを受けることで、見落としを防げます。

基本合意書を省略すべきでない理由

仮合意”を飛ばすと、M&Aは高確率で迷走します。

基本合意書(MOU)は、M&A交渉の中間地点で「方向性をすり合わせる」ための極めて重要な書面です。
一見すると形式的な書類に見えますが、これを省略してしまうと条件認識のズレや交渉の停滞、信頼関係の破綻といったトラブルが起こりやすくなります。
ここでは、基本合意書を結ばずに進めるリスクと、締結する意義を整理します。

合意の前提を明文化できず、後戻りが発生する

M&Aの交渉では、譲渡価格やスキーム、スケジュールなどの条件を口頭やメールで進めてしまうケースも少なくありません。
しかし、文書化されていない内容は「正式な合意」とは見なされず、後から認識の食い違いが発生しやすくなります。
基本合意書を交わすことで、どの項目がすでに合意されており、どの部分が今後詰めるべき点なのかを明確にできるため、交渉全体の整理とトラブル防止につながります。

排他交渉を明確にして、交渉を集中化できる

基本合意書には、多くの場合「排他交渉条項(独占交渉権)」が盛り込まれます。
これは、一定期間、他の候補と交渉を行わないという取り決めであり、買い手が安心してデューデリジェンスに投資できる環境を整えるうえで欠かせません。

この条項がないまま複数交渉を並行すると、情報漏えいのリスクや優先順位の不明確化、信頼関係の崩壊といった問題が起こる可能性があります。
排他条項を設けることは、双方が誠実に交渉を進める姿勢を示すサインでもあります。

双方の信頼関係を可視化し、心理的な安心を生む

M&A交渉は金額だけでなく、「誰と進めるか」という信頼関係が重要です。
特に事業承継型のM&Aでは、従業員や顧客、取引先など、人を介した引継ぎが前提となります。
基本合意書を取り交わすことで、交渉の本気度やお互いの誠実さ、合意の方向性が可視化され、心理的にも安心感が生まれます。
書面は「信頼の証拠」として機能し、交渉後のトラブル防止にもつながります。

万一の交渉不成立時に備えられる

基本合意書には、交渉が不調に終わった場合の解除条件や対応ルールを盛り込むことも可能です。
これを省略してしまうと、破談時の責任範囲が不明確になり、費用負担や情報管理をめぐって紛争化するリスクが高まります。
あらかじめ出口戦略を定めておくことで、感情的な対立を防ぎ、交渉を建設的に終結することができます。

意向表明書との違い

意向表明書(LOI)と基本合意書(MOU)は、ともにM&A交渉の初期段階で重要な役割を果たす書面ですが、その目的と拘束力には明確な違いがあります。

意向表明書は、買い手側が「この条件で御社を買収したい」といった初期の意思を売り手に示すためのもので、提出者は買い手一社のみ。法的な拘束力は原則としてなく、主に「価格帯」「スキーム」「今後の交渉の意思」などが記載されます。

一方で基本合意書は、意向表明書を経て、売り手・買い手双方が「この方向で交渉を進めましょう」と合意したことを確認し、文書に残すステップです。排他交渉義務や秘密保持条項など、一部に法的拘束力を持つ内容が含まれる点でも、意向表明書と異なります。

わかりやすく言えば、意向表明書は「買い手からの申し出」、基本合意書は「双方の合意を確認する書面」と位置づけられます。

最終契約書との違い

「仮合意」と「本契約」──決定的な違いは“拘束力”と“確定性”にあります。

基本合意書と最終契約書の最大の違いは、合意内容の確定性と法的拘束力にあります。

基本合意書は、買収条件の大枠について“仮合意”するための文書です。譲渡価格のレンジやスケジュール、スキームなど、取引の全体像を整理し、今後の交渉をスムーズに進めるための道しるべのような役割を果たします。
この段階では、交渉の継続が前提であり、内容が変更される余地も残されています。

一方、最終契約書(正式名称:株式譲渡契約書や事業譲渡契約書など)は、M&A取引のすべての条件が確定し、法的な拘束力を持つ「本契約」です。
譲渡価格、支払条件、クロージング日、表明保証、誓約事項、損害賠償の範囲など、実務的かつ詳細な条項が明記され、署名・押印をもって双方に履行義務が発生します。

つまり、基本合意書は「これから本契約に向かって交渉を進めるための仮約束」であり、最終契約書は「条件が確定し、正式に取引を成立させる最終合意」を意味します。

よくある質問(FAQ)

Q1.基本合意書を結ぶと、M&Aが確定するのですか?

→ いいえ。基本合意書はあくまで「仮合意」であり、最終契約ではありません。
この段階では交渉の方向性を定めるのみで、正式な売買成立には至っていません。最終契約書を締結することで、初めて法的な効力が発生します。

Q2.基本合意書に法的拘束力はありますか?

→ 全体としては拘束力がないことが一般的ですが、排他交渉(独占交渉権)・秘密保持・損害賠償など一部の条項には拘束力が及ぶ場合があります。
文言次第ではトラブルの原因にもなるため、締結前に専門家による確認が推奨されます。

Q3.譲渡価格は基本合意書の時点で確定しますか?

→ 多くのケースでは「金額レンジ」や「算定方法(例:EBITDA倍率)」として記載し、最終的な価格はデューデリジェンス後に確定します。
基本合意書はあくまで「交渉の土台」を示す段階です。

Q4.排他交渉(独占交渉権)はどのくらいの期間が一般的ですか?

→ 一般的には1〜2ヶ月程度です。
ただし案件の規模や調査内容によって前後します。期間が長すぎると売り手側の自由度が失われるため、延長条件や解除条項を明記することが望ましいです。

Q5.基本合意書を交わさずに進めても問題ありませんか?

→ 原則として避けるべきです。
基本合意書を省略すると、条件認識のズレや交渉の行き違いが発生しやすくなります。
トラブル防止や信頼関係の可視化のためにも、正式契約前の中間ステップとして締結することが推奨されます。

まとめ|基本合意書を正しく理解し、後悔のない事業承継を

基本合意書(MOU)は、M&A交渉を円滑に進めるための“設計図”のような存在です。
この書面を通じて、譲渡価格やスキーム、スケジュールといった条件を整理し、買い手・売り手の認識をそろえることで、以降の交渉をスムーズに進めることができます。

一方で、内容を十分に理解せずに署名してしまうと、排他交渉の期間や拘束範囲などをめぐってトラブルに発展するリスクもあります。
基本合意書の段階で重要なのは、「どこまでが仮合意で、どこからが拘束されるのか」を明確にし、双方が納得したうえで次のステップへ進むことです。事業承継や会社売却を検討している経営者にとって、基本合意書は“信頼関係の証明書”でもあります。
交渉をスムーズに進めるためには、条件の整理や法的リスクの確認を怠らず、専門家のサポートを受けながら段階的に進めることが重要です。

たすきコンサルティングでは、基本合意書の作成・確認から交渉支援、最終契約までを一貫してサポートしています。
初めてのM&Aでも安心して進められる体制を整えていますので、事業承継や会社の将来に関してお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。


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