M&Aにおける必要書類「ノンネームシート」とは?目的や役割をわかりやすく解説

M&Aプロセスにおいて、最初に作成する重要な書類が「ノンネームシート」です。ノンネームシートは、売却企業の匿名性を保ちながら、買い手に対して企業概要や魅力を伝える役割を果たします。
しかし、ノンネームシートの作成において「情報を開示しすぎると特定されるリスク」や「企業の魅力が十分に伝わらない」といった課題もあります。

本記事では、M&Aにおけるノンネームシートの目的や役割、作成時のポイントについて詳しく解説します。

ノンネームシートとは?

ノンネームシートとは、M&Aにおいて、売却側企業が買い手候補に対して匿名で企業情報を開示するための資料です。「匿名の企業紹介書」といえます。

M&Aプロセスの初期段階で用いられ、企業名や具体的な情報を伏せつつ、事業内容や財務状況、強みなどを簡潔にまとめた内容になります。

目的は、企業名を開示せずに買い手候補に興味を持ってもらい、次のステップへと進めることです。
ノンネームシートで興味を持った買い手に対して、「ネームクリア」(企業名や詳細情報の開示)を行い、具体的な交渉へと進む流れになります。

例えば、A社が事業譲渡を検討しているケースでは、ノンネームシートには次のような情報が記載されます。

  • 事業内容:製造業(電子部品)
  • 売上規模:10億円
  • 営業利益率:8%
  • 譲渡理由:後継者不足
  • 事業の強み:独自技術を持つ製品で国内シェア30%
  • 希望取引形態:株式譲渡

➡ 実際の社名や製品名などは伏せることで、特定を防ぎながら、企業の魅力を伝えることが重要です。

ノンネームシートがM&Aにおいて重要な理由

ノンネームシートは、M&Aプロセスの中でも最初に買い手に提示される重要な書類です。売却企業の名前を伏せながら、魅力や事業の概要を伝えることで、相手の関心を引き、交渉のきっかけを作る役割を果たします。
特に中小企業においては、情報開示のタイミングを慎重に見極める必要があり、ノンネームシートの活用がその第一歩になります。ここでは、なぜノンネームシートがM&Aにおいて重要とされるのか、その理由を3つに整理して解説します。

1. 匿名性を保ちつつ買い手候補の関心を引ける

M&Aを検討している企業の多くは、「自社が売却を検討している」ことを社外に知られたくないと考えています。ノンネームシートを活用することで、企業名を伏せたまま魅力を伝えることができ、リスクを最小限にしながらアプローチが可能です。

📌 ポイント

  • 従業員・取引先・競合に知られることなく情報開示ができる
  • 匿名だからこそ、複数の買い手候補に並行してアプローチできる

2. 興味のある買い手だけを選別できる

ノンネームシートは、「興味のある買い手」とだけ具体交渉に進むためのフィルターの役割も担います。広くばらまくのではなく、資料を見て関心を示した相手とだけ「ネームクリア」(社名開示)を行うことで、効率よく交渉相手を絞ることができます。

📌 ポイント

  • 関心度の高い買い手とのみ商談を進めることができ、効率的
  • 最初に情報を出しすぎないため、秘密保持の観点からも安心

3. M&A全体の成否を左右する“入り口”になる

ノンネームシートは、言わば売却側の第一印象。ここで買い手の興味を引けなければ、その先の交渉にすら進めません。逆に、簡潔で魅力的にまとめられたノンネームシートであれば、スムーズに次のステップ(ネームクリア・基本合意)に進むことが可能です。

📌 ポイント

  • ノンネームシートの質が、交渉のスピードや成功率に直結する
  • 初期の印象が良ければ、より好条件でのM&Aに繋がる可能性も高まる

ノンネームシートの主な記載内容

ノンネームシートは、企業名を伏せつつも買い手が興味を持つような情報を的確に伝えることが求められます。過剰な情報開示は企業特定につながるリスクがありますが、逆に情報が不足していると、買い手の関心を引くことができません。ここでは、ノンネームシートに記載すべき代表的な項目と、そのポイントをわかりやすく解説します。

1. 業種・業態・事業概要

企業の主要なビジネス内容を簡潔に記載します。
あくまで「業界」「商品・サービスの特徴」「収益源」などにとどめ、企業名や地名は避けます。

≪記載例≫

  • BtoB向けの特殊部品を製造・販売しており、国内外に安定した顧客基盤を持つ
  • 小規模ながらニッチな業界で強みを持つソフトウェア開発会社

2. 売上規模・利益水準

売上高や営業利益などの財務情報を**レンジ(幅)**で記載するのが一般的です。
正確な金額や決算書は、ネームクリア後に開示します。

≪記載例≫

  • 年商:5〜10億円、営業利益:約10%
  • 3期連続黒字経営、キャッシュフローも安定

3. 事業の強み・特徴

他社との差別化ポイントや、競争優位性など、買い手にとって魅力となるポイントを記載します。

≪記載例≫

  • 独自技術を用いた製品で、国内トップクラスのシェア
  • 特定業界におけるリピート率の高い顧客基盤

4. 譲渡理由

可能な範囲で、売却・譲渡を検討する背景を記載します。
「後継者不在」「事業の選択と集中」など、ネガティブにならない表現が理想です。

≪記載例≫

  • 後継者不在により、第三者への承継を検討中
  • 本業への集中のため、非中核事業の譲渡を検討

5. 希望する取引形態

売り手の希望として「株式譲渡」「事業譲渡」などの取引スキームや、希望時期などを記載します。

≪記載例≫

  • 株式譲渡を希望(100%譲渡)
  • 譲渡希望時期:半年以内を目安

6. 従業員規模・拠点情報

買い手が事業運営のイメージをしやすくするために、社員数や主要拠点を記載しますが、特定されないよう表現に注意します。

≪記載例≫

  • 正社員10名程度(その他パート含む)
  • 関東地方に本社工場を構える

7. 譲渡対象資産(必要に応じて)

場合によっては、譲渡対象の資産についても概要を記載することがあります(例:不動産・知的財産など)。

≪記載例≫

  • 所有する営業拠点(本社ビル)、知的財産権あり(商標登録済)

ノンネームシートを取り扱う際の注意点 【失敗を防ぐための5つのポイント】

ノンネームシートは、M&Aの初期段階で買い手に提示される非常に重要な資料です。しかし、「情報の出しすぎ」や「曖昧な表現」によって、企業が特定されてしまい、従業員や取引先にM&Aの動きが漏れるリスクもあります。ここでは、よくある失敗パターンとその防止策をセットで紹介します。

注意点①:企業特定につながる情報を避ける

≪NG例≫
「○○県○○市にある創業30年の歯科用機器メーカー(年商7.3億円)」
→ 地域×業種×売上高でほぼ企業特定可能

≪対策≫

  • 地域は「関東地方」、売上は「5〜10億円」と幅を持たせて記載
  • 社員数や創業年数も「10名程度」「30年以上」などにぼかす

≪リスク≫
社名が特定されると、従業員・顧客・競合に売却意図が知られ、事業継続に支障を来す可能性があります。

注意点②:売却理由は前向きに表現する

≪NG例≫
「業績悪化のため、撤退を希望」
→ 買い手にネガティブな印象を与え、交渉が不利に

≪対策≫

  • 「経営資源の選択と集中」「後継者不在に伴う事業承継」など前向きな理由で表現
  • 買い手が安心できるよう、収益性や市場性のある事業であることも併記

注意点③:情報を開示しすぎない(“引きすぎず、押しすぎず”)

≪よくある失敗≫
・過度な詳細(売上推移、取引先名、利益率の詳細)を載せてしまう
・IM(情報開示資料)レベルの内容を入れてしまう

≪対策≫

  • ノンネームシートは「興味づけ」が目的
  • 詳細は、ネームクリア後やNDA締結後に開示する段階でOK

注意点④:配布管理を徹底する(NDAの締結が前提)

≪リスク≫
仲介業者や買い手候補から、第三者にノンネームシートが転送される可能性あり

≪対策≫

  • NDA(秘密保持契約)締結後にのみ開示
  • 資料に「第三者提供禁止」などの注意文を明記
  • PDFに閲覧制限をかけるなど、セキュリティ管理も忘れずに

注意点⑤:段階的な情報開示で買い手の温度感を見極める

≪失敗例≫
ノンネームシートの段階で詳細を開示 → 買い手の興味が浅く、交渉に発展せず

≪対策≫

  • ①ノンネーム → ②ネームクリア → ③IM(詳細資料)というステップを丁寧に進める
  • 初期段階は「引きつける」ことに集中し、見せすぎない勇気を持つ

ネームクリアとは?ノンネームシートの次に行う“企業名開示”の意味と進め方

ノンネームシートで買い手の興味を引いた後、次に行うのが「ネームクリア」です。これは、売却企業の実名(社名)や詳細情報を初めて買い手候補に開示するプロセスであり、M&A交渉の本格化に向けた第一歩となります。ノンネーム段階では企業名を伏せていたため、買い手側は断片的な情報でしか判断できません。ネームクリアにより詳細情報を明かすことで、本気の買い手に対して検討を進めてもらい、信頼関係の構築やトップ面談の準備へとつなげることができます。開示にあたっては、秘密保持契約(NDA)を締結した後に行うのが一般的です。買い手の信頼性や意図をしっかりと見極めた上で、丁寧に進めることが求められます。

【 ネームクリアの流れ 】

① ノンネームシート送付

② 買い手が「関心あり」と表明

③ NDA(秘密保持契約)を締結

④ ネームクリア(企業名・詳細情報の開示)

⑤ 詳細資料(IM)提供・トップ面談へ

ネームクリアでは、社名や所在地、代表者情報、財務状況、取引先との関係など、ノンネームでは伏せていた情報を開示します。このステップは情報漏洩リスクも伴うため、十分な注意が必要です。すべての買い手にネームクリアを実施すると情報が拡散する恐れがあり、競合に売却の動きが知られる可能性があります。また、NDAを締結せずに企業名を明かしてしまうと、従業員や取引先に意図せず情報が漏れることも考えられます。そのため、買い手の目的や資金力などを慎重に見極め、開示範囲や資料の管理方法も明確にしておくことが重要です。

まとめ|ノンネームシートでM&Aを成功させるために

ノンネームシートは、M&Aの最初の接点であり、「どのような会社なのか」「もっと話を聞いてみたい」と買い手に感じてもらうための最初の勝負資料です。
企業名を伏せつつも、事業の魅力や強みを適切に伝えることで、良質な買い手との出会いにつながります。

そして、ノンネームシートで興味を引いたあとのネームクリアの場面では、相手選定・情報管理・開示タイミングがカギとなり、その後の交渉全体の成否を左右する重要なフェーズになります。

つまり、ノンネームシートの内容と活用方法、ネームクリアの判断と実行力が、M&Aの成功を大きく左右するのです。


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