M&Aにおける必要書類「仲介契約書」とは?意味・目的・注意点を専門家がわかりやすく解説

【2025年10月更新】
M&Aを進める際には、初期段階での契約内容の整理が成功を左右します。その中でも特に重要なのが「仲介契約書(アドバイザリー契約書)」です。
仲介契約書とは、M&A仲介会社やアドバイザー(FA:ファイナンシャル・アドバイザー)がM&A支援を行う際に取り交わす契約書で、報酬条件・役割・責任範囲・守秘義務などが定められます。
契約内容を正しく理解せずに締結してしまうと、不利な条件で取引が進むリスクもあるため注意が必要です。
本記事では、M&Aにおける仲介契約書の意味・目的・契約形態・報酬体系・注意点までを、M&A専門家の視点からわかりやすく解説します。
目次
M&Aにおける仲介契約とは?
M&Aの仲介契約とは、M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)が、企業の売却・買収に関する助言やサポートを提供する際に締結する契約です。
交渉支援・スキーム設計・候補先選定など、専門知識を要する業務を外部専門家が担うことで、取引のスムーズ化と条件交渉の最適化を実現します。
仲介契約の2つの形態
専任契約
特定のアドバイザー1社にのみM&Aを委託する契約形態です。
他の仲介会社に依頼できない代わりに、担当者が一貫してサポートするため、交渉方針の一貫性とスピード感が生まれます。
主なメリット
- 担当者が責任を持って案件を推進
- 機密情報の管理が容易
- 長期的な信頼関係を築きやすい
非専任契約
複数の仲介会社・アドバイザーに依頼できる契約形態です。
競争原理が働くことで有利な条件を引き出せる一方で、情報漏洩リスクや交渉の混乱が生じる可能性もあります。
主なメリット
- 複数の提案を比較・検討できる
- 成功報酬のみの契約が多く、費用リスクを抑えやすい
- 担当者を柔軟に変更可能
2つの交渉方式:仲介方式とFA方式
M&A仲介方式
M&A仲介会社が売り手と買い手の双方に関与し、両者の取引を成立させるための橋渡し役を担います。仲介会社は中立の立場で取引を進めます。一般的には、中小企業のM&Aの場合には、仲介方式で行う例が多いです。

アドバイザリー方式(FA)
M&Aのアドバイザーが売り手または買い手の一方に専属で付き、顧客の利益を最大化するために助言やサポートを提供します。

仲介契約書に記載される主な内容(条項とチェックポイント)
M&A仲介契約書には、アドバイザーの業務範囲や報酬、契約期間、守秘義務など、M&Aを適正に進めるための基本条件が細かく定められています。
内容を正しく理解しないまま契約してしまうと、後にトラブルや不利益が生じるおそれがあります。
ここでは、仲介契約書に盛り込まれる主な項目と、その確認ポイントを詳しく解説します。
(1)業務範囲・役割の明確化
仲介契約書では、アドバイザーがどの範囲まで業務を行うかを明確に定めます。
一般的な業務内容は以下の通りです。
- M&A戦略の立案・アドバイス
- 買収・売却候補企業の探索および選定
- 企業価値の算定(バリュエーション)
- 意向表明書(LOI)・基本合意書の作成支援
- 条件交渉のサポート
- デューデリジェンス(DD)の調整・同席
- 最終契約書締結・クロージング支援
確認ポイント
業務範囲に「DD対応」「契約書作成支援」などが含まれているか確認しましょう。
一部の仲介会社では、DDや法務対応を「別料金扱い」とする場合があります。
(2)報酬条件(フィー体系)
仲介契約書では、報酬体系や支払い時期・算出方法が明記されます。
多くの仲介会社では、レーマン方式(取引金額に応じた料率設定)が採用されています。
- 着手金:契約締結時に発生(返金不可)
- 中間報酬:基本合意またはLOI締結時に発生
- 月額報酬:一定期間ごとに定額支払い
- 成功報酬:M&A成立時に支払い(取引金額×料率)
確認ポイント
- 成功報酬の料率と「取引金額の定義(株式価額か企業価値か)」を必ず確認
- 「最低報酬額(ミニマムフィー)」が設定されている場合もある
- 成約後の支払い期限(例:クロージング後30日以内など)も明記されているか確認
(3)契約期間・更新・解除条件
仲介契約の期間や途中解約の条件も重要な条項です。
- 契約期間(例:6か月・12か月など)
- 自動更新の有無
- 契約解除の手続き(書面通知・日数)
- 解除時の報酬精算方法
確認ポイント
契約解除の際にも「テール条項」により報酬が発生するケースがあります。
解除後の一定期間(例:6か月以内)に成約した場合でも成功報酬が請求される可能性があるため、適用条件を必ず確認しましょう。
(4)テール条項(成功報酬の後追い請求に関する規定)
テール条項とは、契約期間終了後であっても、過去に紹介された企業と取引が成立した場合に成功報酬が発生するという規定です。
確認ポイント
- テール期間(通常6〜12か月)の長さ
- 対象となる相手企業の範囲(紹介済み企業に限定されているか)
- 契約解除後の通知義務(報告要否)
(5)守秘義務・情報管理
M&Aでは企業の財務・顧客・取引情報など、極めて機密性の高い情報を扱います。
そのため、守秘義務の範囲と罰則が契約書に明記されます。
確認ポイント
- 秘密情報の定義と対象範囲
- 第三者(買手候補)への情報提供条件
- 守秘義務違反時の責任(損害賠償等)
- 契約終了後の情報破棄・返却方法
(6)独占条項(専任契約の場合)
専任契約では、他の仲介会社やFAに重複依頼できない旨の独占条項が盛り込まれます。
この条項に違反すると、M&Aが成立していなくても違約金や成功報酬が発生する場合があります。
確認ポイント
- 独占期間の明示(例:契約期間中)
- 違反時のペナルティ有無(違約金の有無)
(7)紛争解決条項
契約に関するトラブルが生じた場合の解決方法(裁判所の管轄や仲裁機関)を定める条項です。
確認ポイント
- 「専属的合意管轄裁判所」がどこか(多くは東京地方裁判所)
- 紛争解決手段(裁判・調停・仲裁)の明示
仲介契約の報酬体系
M&A仲介契約の報酬体系は、一般的に「着手金」「中間報酬」「月額報酬」「成功報酬」の4つで構成されます。
報酬の算出には、M&Aの取引金額に応じて料率を乗じる「レーマン方式」が広く用いられています。
報酬区分 | 内容 | 発生タイミング |
着手金 | 契約締結時に支払う報酬 | 契約締結時 |
中間報酬 | LOI(意向表明書)やMOU(基本合意書)締結時など、一定の進捗段階で発生 | 基本合意時 |
月額報酬 | 契約期間中に毎月定額で支払う報酬 | 契約期間中 |
成功報酬 | M&Aが最終的に成約した場合にのみ発生 | 成約後 |
◎関連記事:M&A仲介手数料はどう決まる?レーマン方式の計算式と仕組みを解説
たすきコンサルティングの「完全成功報酬制」
当社 たすきコンサルティングでは、中小企業経営者様の負担を最小限に抑えるため、着手金・中間報酬・月額報酬を一切いただかない「完全成功報酬制」 を採用しています。
この仕組みにより、M&Aが最終的に成約した場合にのみ報酬が発生するため、「成果に対してのみ費用がかかる」明確で安心な料金体系となっています。
私たちは、お客様の成功と同じ方向を向き、成約まで責任を持ってサポートします。
※なお、完全成功報酬制は譲渡企業様(売り手企業様)に限ります。
仲介契約を締結するメリット
M&Aにおいて仲介契約書を締結することは、単に「書面上の取り決め」を行うだけでなく、取引の透明性・信頼性を確保し、トラブルを未然に防ぐための重要なステップです。
特に、M&Aの初期段階では「どこまで支援してもらえるのか」「費用はいくらかかるのか」など、曖昧なまま進めてしまうと後にトラブルにつながるケースも少なくありません。仲介契約書をきちんと締結することで、以下のようなメリットが得られます。
契約内容・報酬条件の明確化
仲介契約書を交わすことで、アドバイザーがどの範囲まで業務を行うのか、また、どの段階でどのような報酬が発生するのかを明確にできます。
曖昧な条件のまま進めると、成約後に「想定外の費用が発生した」「報酬計算が不透明」といったトラブルが生じるリスクがあります。契約書を通じて、報酬体系・成功報酬率・テール条項などを明文化しておくことで、お互いが安心して取引を進められる環境を整えることができます。
トラブル防止とリスク回避
仲介契約書には、守秘義務や契約解除条件、情報の取り扱いルールなどが定められています。
これにより、企業の機密情報が不適切に扱われるリスクや、認識の食い違いによるトラブルを防ぐことができます。
特に中小企業M&Aでは、経営者の個人情報・財務情報が関係するため、「情報管理体制の明文化」は経営リスクを最小限に抑えるうえで非常に重要です。
アドバイザーの責任範囲と成果目標が明確になる
契約書により、アドバイザーがどのような支援を行うかが明確になるため、担当者の責任範囲や成果指標を具体的に把握できます。
たとえば、
- 候補先企業のリストアップ件数
- 基本合意までの支援範囲
- DD(デューデリジェンス)対応の有無
などを契約書に明示しておくことで、サポート内容が明確になり、
「どこまで対応してくれるのか」という不安を解消できます。
信頼性と取引の透明性を高める
正式な契約書を交わすことは、アドバイザー・仲介会社の信頼性の証明にもなります。
契約書を提示せずに口頭ベースで進める仲介業者も存在しますが、そのような場合、後に「報酬トラブル」や「情報漏えい」のリスクが高まります。
たすきコンサルティングでは、すべての案件において明確な契約書を締結し、中小M&Aガイドライン(第3版)に準拠した透明性の高いプロセスで支援を行っています。
M&Aのスピードと成果を高められる
契約関係が明確になることで、アドバイザーがより主体的に動けるようになり、
スムーズな交渉・マッチングが実現します。
特に専任契約を結ぶ場合は、アドバイザーが一貫してプロジェクトを担当するため、
戦略立案から成約までのスピードと精度が向上します。
また、契約条件が明確であることで社内の意思決定も早まり、結果としてM&Aの成約確率が高まる傾向にあります。
仲介契約書の注意点・チェックポイント
M&Aの仲介契約書は、契約条件や報酬体系、アドバイザーの業務範囲など、M&Aの進行に関わる重要事項を定める法的な書類です。
一度締結すると内容変更が難しいため、事前の確認と理解が不可欠です。
以下では、契約時に特に注意すべき主要なポイントを解説します。
① 業務範囲と責任の明確化
まず確認すべきは、アドバイザーがどの範囲まで支援を行うのかという「業務範囲」です。
候補先のリストアップ、初回面談の調整、条件交渉、デューデリジェンス(DD)対応、最終契約締結サポートなど、
どの段階まで含まれているかを明確にしておきましょう。
また、M&A成立後のアフターフォロー(PMI支援・契約後の調整など)が含まれるかどうかも確認が必要です。範囲が曖昧だと、「ここまでは対象外」といったトラブルに発展する恐れがあります。
② 報酬体系と支払い条件
仲介契約書の中でも特に注意すべきなのが「報酬体系」です。
報酬がどのタイミングで発生するのか、金額の算定方法は何を基準にしているのかを確認しましょう。
特に、以下の点を事前にチェックすることが重要です。
- 成功報酬の算出基準が「株式価値」か「企業価値」か
- 着手金・中間報酬・月額報酬の有無
- 最低報酬額の設定の有無
- 支払時期(クロージング時/請求日基準)
また、「テール条項(契約終了後に報酬が発生する取り決め)」が設けられている場合は、その適用期間や対象範囲を必ず確認しておくことが重要です。
※たすきコンサルティングでは、譲渡企業様に限り「完全成功報酬制」を採用しており、成約に至らない限り報酬は一切発生しません。安心してご相談いただけます。
③ 守秘義務と情報管理の取り決め
M&Aでは、財務・取引・顧客・従業員情報など機密性の高いデータを扱います。そのため、仲介契約書には「守秘義務条項」が必ず盛り込まれています。
以下の点をチェックしておきましょう。
- 提供した情報の利用目的・保管期間
- 情報漏えい時の対応・責任の所在
- 契約解除後の情報破棄や返却のルール
守秘義務が不十分な契約では、情報漏えいなどのリスクが高まり、企業価値や信用の低下を招くおそれがあります。
④ 契約期間と解除条件
仲介契約の有効期間や解除条件も重要な確認ポイントです。多くの場合、契約期間は6〜12か月で設定されますが、
期間満了前でも「書面通知による中途解約」が可能かどうかを確認しておきましょう。
また、以下のような条項がある場合は特に注意が必要です。
- 「契約解除後もテール条項が適用される」
- 「契約解除には双方の合意が必要」
契約期間や解除条件を明確にしておくことで、不本意な費用負担やトラブルを未然に防ぐことができます。
⑤ 買い手・売り手の双方支援(両手仲介)への留意点
M&A仲介方式では、1社の仲介会社が売り手・買い手双方を支援する「両手仲介」を行うケースがあります。
この場合、双方の利益が完全に一致しない可能性があるため、
どのような立場で支援が行われるのか(どちらを主軸にサポートするのか)を確認しておくことが重要です。
契約書上に「中立的立場で行う」などの記載があるかを確認し、利益相反の可能性についても事前に理解しておくと安心です。
まとめ│仲介契約書を正しく理解し、安心・安全なM&Aを実現する
M&Aの仲介契約書は、単なる形式的な書面ではなく、M&Aの成功を左右する重要な“土台”となる契約です。
報酬体系や業務範囲、守秘義務、契約期間など、各項目をしっかり確認しておくことで、トラブルを未然に防ぎ、安心してM&Aを進めることができます。
特に「テール条項」や「解除条件」は後々の費用発生に関わるため、内容を十分に理解したうえで契約を締結することが大切です。
たすきコンサルティングでは、中小M&Aガイドライン(第3版)に準拠した透明性の高い契約プロセスを採用し、譲渡企業様に限り“完全成功報酬制”でサポートを行っています。 契約内容の確認や条件整理に不安を感じる場合は、ぜひ専門家にご相談ください。
たすきコンサルティングでは、税務・法務・M&Aに精通した専門家が、貴社に最適な契約内容を中立的な立場から丁寧にサポートいたします。
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