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【業界記事】2025年最新│食品卸売業におけるM&Aの活用法|スムーズな事業承継を実現するには?

日本の食品卸売業界は、地域密着型で多重流通構造を持つ一方、後継者不在や物流費高騰といった課題に直面しています。こうした背景から、M&Aを活用した「第三者承継」が注目を集めています。本記事では、業界の最新動向やM&Aの具体的な進め方、成功事例、制度対応までを網羅的に解説し、スムーズな事業承継を目指す経営者に向けて実務的なヒントを提供します。

【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。 
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済み
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済み

目次

食品卸売業界の現状と事業承継課題

市場規模と構造の特徴

1. 市場規模の推移と現状

経済産業省の「商業動態統計」によれば、2023年の食料・飲料卸売業の販売額は約63.3兆円となり、前年から10.9%増加し、過去44年間で最高額を記録しました。

2. 業態別の動向

食品卸売業は、「業務用食品卸」「小売業向け食品卸」「専門食品卸」などに分類されます。近年、外食産業の回復に伴い、業務用食品卸の需要が増加しています。一方で、小売業向け食品卸は、消費者の購買行動の変化や競争激化により、厳しい状況が続いています。

3. 品目別の傾向

品目別では、冷凍食品やチルド食品、調理済み食品などの即食・簡便商品に対する業務需要が伸長傾向にあります。特に冷凍食品は前年比で+6.2%の成長を示しており、食品卸の重点取扱品目として重要度が増しています。一方で、乾物・保存食品など一部の品目では、家庭需要の減退から販売量が漸減している傾向がみられます。

4. 流通構造の変化

食品卸売業界では、従来の「多段階流通」から、より効率的な「センター集約型物流」「直取引型流通」への移行が進んでいます。こうした背景には、物流コストの上昇や人手不足などがあり、経営統合(M&A)による再編が現実的な対応策として注目されています。

直面する経営課題

1.人手不足と高齢化

業界全体で人手不足が深刻化しており、特に中小企業では経営者の高齢化が進んでいます。

2.物流コストの増加

燃料費の高騰や人件費の上昇により、物流コストが増加しています。

3.デジタル化への対応

IT技術の導入が遅れている企業も多く、業務効率化や情報共有の面で課題があります。

4.競争の激化

大手企業や新規参入者との競争が激化しており、価格競争やサービスの差別化が求められています。

これらの課題に対応するためには、事業承継やM&Aの活用、デジタル技術の導入、人材育成など、戦略的な取り組みが必要とされています。

【出典:経済産業省「商業動態統計調査」

【出典:農林水産省「食品流通をめぐる情勢」

M&A動向│なぜ今、食品卸売業界でM&Aが注目されているのか

食品卸売業界においてM&Aが注目される背景には、以下のような複数の構造的・経済的要因があります。それぞれについて詳しく解説します。

後継者不足と地域企業の維持

食品卸売業界の経営者は高齢化が進み、後継者が見つからず事業の継続が困難となるケースが増えています。親族内承継が難しい場合、M&Aは第三者に事業を引き継ぎ、従業員の雇用や地域の取引関係を守るための有効な選択肢となります。

流通・物流構造の変化に対応するため

2024年問題を背景に、物流費や人件費の上昇が卸売業の経営を圧迫しています。M&Aにより、物流ネットワークの統合や拠点の共有が可能となり、効率化とコスト削減が実現しやすくなります。

多角化と専門領域の補完

食品卸売業界では、商品カテゴリーや顧客層に偏りがある企業が多く見られます。M&Aを通じて他社の得意分野や販路を取り込むことで、取扱商品の幅を広げ、需要変化に柔軟に対応する体制を構築できます。

デジタル対応や事業効率化への加速

デジタル受発注や在庫管理などのIT化は業界全体で進行していますが、中小企業では投資負担が重くなりがちです。M&AによってIT導入の進んだ企業と連携することで、効率的な業務運営を実現できます。

地域密着型経営からの脱却と成長志向

多くの食品卸企業は地域密着で安定経営を続けてきましたが、人口減少や市場縮小が避けられない中で、今後の成長を見据えた動きが必要です。M&Aは、他地域への展開や新規事業への参入を可能にし、将来的な生き残りを左右する手段ともなります。

食品卸売業界におけるM&Aのメリット

■ 売り手側のメリット

  • 廃業コスト回避(在庫処分費・違約金)
  • 雇用維持・地域顧客への影響最小化
  • 希望条件(引退時期、承継方法)に合わせた計画的引継ぎ

食品卸売業界におけるM&Aのメリットは、業界特有の構造や地域密着型の性格を踏まえると一層明確になります。卸売業では、在庫や取引先との関係性が極めて重要であり、廃業を選択する際には在庫処分、契約解除、雇用整理など多くの実務的な負担と地域への影響が伴います。M&Aを通じた事業承継であれば、こうした課題を回避しながら、事業の価値を第三者に承継することが可能です。

特に食品卸業界では、取引先や仕入先との信頼関係が事業継続の根幹を成しており、それらを維持したまま引き継げる点は大きなメリットです。経営者が望むタイミングや引退のスタイルに応じたスムーズな引継ぎが実現しやすく、従業員や地域の取引先との関係性も保たれるため、社会的信用の維持にもつながります。

■ 買い手側のメリット

  • 地域営業網や地場ブランドの獲得
  • 冷凍・冷蔵施設、配送網の活用
  • 既存製品・サービスとのクロスセルによる売上拡大

食品卸売業界において買い手側がM&Aを通じて得られるメリットは、単なる事業規模の拡大にとどまらず、地域密着の営業網や物流機能など、即戦力となる経営資源を獲得できる点にあります。特に地方市場では、地場ブランドや長年の取引先との信頼関係が重要な資産となっており、これを引き継ぐことで地域での販路拡大が見込まれます。

また、冷凍・冷蔵設備や配送網などインフラ面の統合によって、物流効率の向上やコスト削減が図れ、既存事業とのシナジー創出も期待できます。たとえば、自社商品の取扱先として買収企業の取引先を活用することで、クロスセルによる収益の拡大が可能です。

さらに、近年ではIT化の進んだ企業との統合により、受発注や在庫管理といった業務の効率化を進められる点も見逃せません。食品卸業界のように多品種少量・短納期が求められる分野においては、こうした業務プロセスの整備が競争力に直結します。

リスクと対策

  • 取引先の離脱:買収後に既存の得意先が取引を継続しない可能性があります。これを防ぐには、キーパーソンと事前に面談を行い、段階的に情報開示することが重要です。
  • 在庫・棚卸リスク:買収時に在庫の過大評価や陳腐化した商品を引き継ぐリスクがあります。事前のデューデリジェンスにより、実地で棚卸し状況を確認する必要があります。
  • 契約更新不可:サプライヤーや納品先との契約において、名義変更や契約更新が認められない場合があります。重要契約については、承継条項の有無や再契約の可否を事前に確認し、必要に応じて交渉を行います。
  • 法制度対応不備:食品表示法やHACCP対応など、法的要件が不十分な場合があります。現場確認と専門家による助言を通じて、買収前に是正可能かを評価し、必要な体制整備を進めます。

食品卸売業界でのM&A成功事例

■ 株式会社竜乃家による鹿児島県内業務用食品卸企業への譲渡(2025年1月)

鹿児島の郷土銘菓「かるかん」の製造販売で知られる竜乃家様が、同県内の業務用食品卸企業へ譲渡されました。地場の強みをもつ製造会社と地域密着の卸売企業との連携により、地域ブランドの継続と地元経済への貢献が両立された好事例です。

【出典:株式会社西原商会│公式プレスリリース

■ 株式会社マルイチ産商による株式会社ダイニチの子会社化(2024年9月)

株式会社マルイチ産商は、高い養殖技術を持つ株式会社ダイニチを子会社化しました。このM&Aにより、マルイチ産商は養殖魚事業の基盤を強化し、産地活性化に向けた新たなビジネスモデルの構築を進めています。

【出典:株式会社マルイチ産商│公式プレスリリース

■ オイシックス・ラ・大地株式会社による株式会社アグリゲートの連結子会社化(2024年3月)

オイシックス・ラ・大地株式会社は、農産物の宅配サービスを展開する企業であり、2024年3月に東京都内で地域密着型の店舗を運営する株式会社アグリゲートを連結子会社化しました。このM&Aにより、両社はフードロス削減や商品流通の効率化を図り、持続可能な食の提供体制の強化を目指しています。

【出典:オイシックス・ラ・大地株式会社│公式プレスリリース

■ 株式会社ミツワ酒販による株式会社G7ジャパンフードサービスの買収(2023年7月)

酒類や食品のEC販売事業を展開していたミツワ酒販様は、後継者不在と今後の事業拡大を見据え、関西を拠点とする食品卸企業G7ジャパンフードサービス様へ全株式を譲渡されました。既存のEC販路とリアルの卸売ネットワークが融合し、双方にとって販路拡大の相乗効果が期待される事例です。

【出典:株式会社G7ジャパンフードサービス│沿革

■ 株式会社きちみ製麺による株式会社八戸東和薬品の買収(2022年2月)

宮城県で創業120年以上の歴史を持つ温麺製造の老舗、きちみ製麺様が、ジェネリック医薬品卸の八戸東和薬品様に譲渡されました。異業種からの参入でありながら、地域密着の食品製造業に新たな経営ノウハウを導入し、製造体制の強化と販路多様化を実現された点が特徴的です。

【出典:きちみ製麺、八戸東和薬品と資本業務提携│日本食糧新聞

食品卸売業界のM&Aを進めるうえでの実務ポイント

譲渡形態の検討

食品卸売業界におけるM&Aでは、譲渡形態によって税務・法務・引継ぎ範囲が異なります。株式譲渡では法人全体をそのまま引き継ぐため、許認可や契約関係を維持しやすい一方、簿外債務や過去のリスクも含まれる可能性があります。事業譲渡では対象資産のみを移転できるため柔軟性はあるものの、契約の再締結が必要な点に注意が必要です。

財務の見える化

買い手企業にとって最も重視されるのが「財務の透明性」です。損益計算書の信頼性、正確な在庫評価、固定資産の明細などが整っていないと、企業価値を適正に判断できず、条件交渉が難航します。特に在庫評価は、食品ロスや陳腐化の観点から重要です。

業務マニュアル整備

食品卸売業界では、ベテラン社員の経験に依存する属人的な業務が多く見られます。引継ぎを円滑に行うためには、受発注、仕入、配送、請求など主要業務について標準化されたマニュアルを整備し、実務の見える化を進めることが求められます。

第三者評価

自社だけで価格を設定せず、M&A仲介会社や事業承継・引継ぎ支援センターなど第三者の評価を受けることが重要です。中立的な視点を持つ専門家を介すことで、適正な企業価値の算定や買い手との信頼形成がスムーズになります。地域の商工会議所が連携窓口となるケースも多いため、積極的に情報収集を行いましょう。

食品卸売業界特有の法制度への対応

食品表示法・HACCP制度への適合状況

2021年6月より、食品衛生法の改正に伴い、すべての食品関連事業者に対してHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)に基づく衛生管理の導入が義務付けられました。特に、冷凍・冷蔵商品を取り扱う食品卸売業者は、温度管理を含む衛生管理計画の策定と実施が求められます。厚生労働省は、加工食品卸業者向けに「冷凍・冷蔵商品販売事業者(加工食品卸業)に向けた温度管理を必要とする加工食品の販売に関するHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書」を公表しています。

【出典:厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」

【出典:冷凍・冷蔵商品販売事業者(加工食品卸業)に向けた 温度管理を必要とする加工食品の販売に関する HACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書

また、食品表示法に基づき、製品のラベル表示やアレルゲン表示などの適正な管理も重要です。消費者庁は、中小規模の食品関連事業者向けに「食品表示実践マニュアル」を提供しており、表示内容のチェックリストや具体的な記載例が掲載されています。

【出典:消費者庁「食品表示実践マニュアル」

物流施設の承継要件

食品卸売業では、冷蔵・冷凍設備や配送車両などの物流インフラが事業の中核を担っています。M&Aや事業承継の際には、これらの設備が適切に維持・管理されているかを確認することが重要です。特に、温度管理が必要な商品を取り扱う場合、冷蔵・冷凍設備の性能や保守状況、配送車両の保有台数や稼働状況などを詳細に把握し、承継後の運用に支障がないようにする必要があります。

また、2024年問題(物流業界における労働時間規制の強化)への対応として、物流業務の効率化や外部委託の検討も重要な課題となっています。三菱食品株式会社は、物流オペレーション事業を新設子会社に承継し、物流体制の強化を図っています。

【出典:三菱食品株式会社│公式プレスリリース

契約承継の可否確認

M&Aや事業承継においては、既存の取引先との契約が承継可能かどうかを事前に確認することが不可欠です。特に、サプライヤーや納品先との契約においては、譲渡や承継に関する条項が設けられている場合があります。契約書の内容を精査し、必要に応じて取引先と再交渉を行うことで、承継後の取引継続を確保することが重要です。

また、2023年12月13日以降、事業譲渡による営業許可や届出の地位の承継が可能となりました。これにより、営業の全部を譲渡する場合には、譲受人が新たに営業許可を取得することなく、営業を継続することが可能です。

【出典:東京都福祉保健局「事業譲渡による営業許可・届出の地位の承継が可能になりました」

食品卸売業界の今後の展望

国内市場の縮小と高齢化対応

日本の少子高齢化により、国内の食品需要は減少傾向にあります。特に若年層の減少は、消費パターンの変化を引き起こし、業界全体の売上に影響を与えています。一方で、高齢者向けの健康食品や介護食など、新たな市場ニーズも生まれており、これらに対応した商品開発やサービス提供が求められています。

【出典:帝国データバンク「食品卸業界の動向と展望」

物流課題と効率化の必要性

物流業界では、2024年問題(ドライバーの労働時間規制強化)により、配送体制の見直しが迫られています。食品卸売業界も例外ではなく、効率的な物流網の構築や、共同配送の導入など、コスト削減とサービス維持の両立が課題となっています。

デジタル化と業務効率の向上

業界全体でデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が進められています。特に、受発注システムの自動化や在庫管理の最適化など、業務効率の向上が求められています。また、データ分析を活用した需要予測やマーケティング戦略の強化も重要なテーマとなっています。

サステナビリティと環境対応

環境意識の高まりにより、食品ロスの削減やエコ包装の導入など、サステナビリティへの対応が求められています。業界としても、持続可能なビジネスモデルの構築や、環境負荷の低減に向けた取り組みが進められています。

海外市場への展開

国内市場の縮小を補うため、海外市場への進出が注目されています。特に、アジア諸国における日本食ブームや健康志向の高まりを背景に、日本の食品や食文化を輸出する動きが活発化しています。これに伴い、現地パートナーとの連携や、現地ニーズに合わせた商品開発が重要となっています。

まとめ|食品卸売業界における事業承継とM&Aの最適解とは?

食品卸売業界では、後継者不足や物流課題、法制度への対応など、複合的な経営課題が進行しています。こうした状況の中、M&Aは単なる事業の引継ぎ手段にとどまらず、企業の持続的発展や競争力強化のための戦略的な選択肢として位置づけられつつあります。

特に、地域密着型の取引網や冷蔵物流インフラといった食品卸業特有の資産を「次の担い手」にスムーズに承継することは、企業価値を維持・向上させる鍵となります。さらに、買い手企業にとっても、販路拡大や仕入効率の向上など多くのシナジーを見込めるため、両者にとっての“最適解”を導き出すには、事前の準備と的確なアドバイスが不可欠です。

M&Aを検討している方は、一度たすきコンサルティングにご相談ください。
経験豊富な食品卸売業界専門のアドバイザーが、承継の成功に向けて丁寧にサポートいたします。


担当コンサルタント紹介

たすきコンサルティングでは、食品卸売業界に精通した専門コンサルタントが、貴社のニーズに合わせた最適な事業承継支援を提供しております。後継者選定から経営資源の引継ぎまで、専門的なサポートで貴社をバックアップいたします。

業界特化法人部 コンサルタント
安達 真登

大学卒業後、新卒で山形県庁に入庁。約7年半、商工や財政部門の業務に従事。その後、農林水産省への出向を経て、2024年10月からたすきコンサルティングに参画。


譲渡(事業承継)に関するお問い合わせ

日本の食品卸売業界は、地域密着型で多重流通構造を持つ一方、後継者不在や物流費高騰といった課題に直面しており、多くの経営者様が将来への不安を抱えていらっしゃいます。
事業の譲渡や承継についての第一歩は、専門家への相談から始まります。情報収集や自社評価など、ぜひお気軽にお問い合わせください。下記フォームより、必要事項をご記入の上送信いただければ、迅速にご対応させていただきます。


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