【業界記事】2025年最新│ハードウェア業界で進むM&Aと事業承継|最新動向と成功するポイントとは

少子高齢化やグローバル競争が進む中、ハードウェア業界ではM&Aを活用した事業承継と成長戦略が加速しています。特に半導体・IoT・5G市場の拡大を背景に、技術力や製造力を確保するための戦略的M&Aが増加傾向にあります。本記事では、最新データに基づく業界動向、成功事例、ハードウェア業界の今後の展望まで詳しく解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済み
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済み
目次
ハードウェア業界とは?
ハードウェア業界は、電子機器、半導体、通信機器、IoTデバイスなどの物理的なIT製品を製造・提供する分野です。デジタル社会の進展とともに、AI、自動運転、スマートシティ関連の需要が急増しており、業界はさらなる成長が見込まれています。
ハードウェア業界の課題と事業承継問題
後継者不在による事業承継問題
日本全体で中小企業の後継者不足が深刻化する中、製造業を含むハードウェア業界でも同様の傾向が続いています。
東京商工リサーチの2024年調査によると、全産業の後継者不在率は62.15%に達しており、依然として高水準で推移しています。特に技術継承が重要な製造業では、後継者不在が企業存続リスクを高めています。
【出典元:東京商工リサーチ|後継者不在率調査 2024年】
設備投資負担と技術革新への対応
ハードウェア業界では、グローバル競争に対応するための継続的な設備投資や、AI・5G・IoTなどの技術革新への対応が経営負担となっています。特に中小企業にとっては、資金面・人材面の制約が大きく、事業の将来性に不安を抱えるケースが増えています。
経済産業省の「ものづくり白書」でも、製造業における人材不足と設備更新負担の増加が指摘されており、これが事業承継を難しくする要因となっています。
【出典:経済産業省|2024年版ものづくり白書】
海外競争とサプライチェーンリスク
さらに、米中貿易摩擦や地政学リスクの影響で、サプライチェーンの安定確保も課題となっています。これにより、規模の小さい企業ほど競争力維持が難しく、M&Aによる統合・再編が進む背景となっています。
ハードウェア業界のM&A成功事例
✅ 富士通フロンテックによる米Fulcrum Biometrics社の買収(2020年)
富士通フロンテック株式会社の米国子会社であるFujitsu Frontech North America, Inc.は、2020年4月、米国の生体認証ソリューション企業Fulcrum Biometrics, LLCを買収しました。この買収により、富士通フロンテックは自社の手のひら静脈認証技術とFulcrum社のマルチモーダル生体認証ソリューションを組み合わせ、高精度・高セキュリティな本人認証の提供が可能となりました。
【出典元:富士通フロンテック公式プレスリリース】
✅ 京セラによる昭和オプトロニクス株式会社の子会社化(2020年)
京セラ株式会社は、2020年に光学部品メーカーである昭和オプトロニクス株式会社を子会社化しました。
この買収により、京セラはカメラ用レンズや光通信部品などの光学技術を強化し、自社のエレクトロニクス事業とのシナジーを創出。高精度な光学製品の開発力を向上させることで、スマートフォン・自動車・医療機器分野への供給体制を拡充し、グローバル市場での競争力を強化しました。
【出典元:京セラ株式会社公式ニュースリリース】
ハードウェア業界におけるM&Aのメリット
■ M&Aメリット
- 技術力・製造力の継承
- 販路拡大・海外展開の加速
- 設備投資負担の軽減
M&Aを活用することで、自社の将来を見据えた戦略的な展開が可能になります。
たとえば、熟練技術者や製造ノウハウの継承により、技術力を途切れさせることなく次世代へ引き継げます。
また、大手企業との連携による販路拡大や海外展開の加速も大きな魅力です。単独では進出が難しい市場にも、買収先のネットワークを活用することで参入が可能になります。 さらに、高額な設備投資の負担を共有・軽減できる点も、資金力に限りのある中小企業にとっては大きなメリットです。
■ M&Aに伴うリスクとその対策
- 統合時の企業文化・生産プロセスの違い
- キーマン技術者の離職リスク
ハードウェア業界のM&Aでは、企業文化や生産プロセスの違いが統合時に混乱を招く可能性があります。製造現場の進め方や品質基準の違いが、効率低下や摩擦につながるケースも少なくありません。
また、熟練技術者や開発責任者といったキーマンが離職するリスクも重要な懸念点です。技術が人に依存しやすい業界特性から、退職が製品力や取引先との信頼に直結することもあります。
こうした課題を防ぐためには、M&A前からのPMI計画の策定や、キーマンへのインセンティブ設計など、事前の丁寧な準備が成功の鍵を握ります。
ハードウェア業界において事業承継を成功させるためのM&Aポイント

1. 保有設備・技術資産の明確化
ハードウェア業界では、製造設備や保有技術が企業価値の大きな要素となります。そのため、M&Aを進める際には以下の点を事前に整理することが重要です。
- 設備リストの整備:主要な生産設備、検査機器、保守状況、耐用年数を明確にする。
- 独自技術・特許の棚卸し:自社が強みとする製造技術、ノウハウ、保有特許、ライセンス契約の有無を可視化。
- 設備投資履歴と将来的な更新計画も提示できると、買い手側の信頼感が向上します。
▶ ポイント:買い手企業がシナジーをイメージしやすいように、技術・設備の「見える化」を行うことが交渉成功の鍵です。
2. 主要取引先との関係維持策
ハードウェア業界は、特定の取引先との長年の信頼関係に支えられているケースが多いため、M&Aによる事業承継時に取引継続が不透明になることは避けなければなりません。
- 取引契約の内容確認:継続条件や変更条項を事前に精査。
- 取引先への事前説明:M&A後も安定した供給・サービスを継続する旨を丁寧に説明し、信頼関係を維持。
- 買い手企業の強みを活かした提案:取引先に対して、M&Aによるメリット(供給力強化・製品ライン拡充等)を示す。
▶ ポイント:主要顧客やサプライヤーとの信頼関係を維持するため、M&A発表タイミングと説明責任が重要です。
3. 技術者・職人のモチベーション維持
ハードウェア業界における最大の無形資産は、熟練した技術者や職人の存在です。M&Aによる経営体制の変化により、技術者の離職リスクが高まることが多いため、事前の対応が不可欠です。
- キーマン技術者のリストアップ:誰が重要技術を担っているのかを明確にする。
- インセンティブ設計:M&A後の処遇や役職、報酬面での優遇措置を検討。
- 将来ビジョンの共有:新体制下での事業方針や技術開発の方向性を早期に伝え、働く意義を再認識してもらう。
▶ ポイント:技術者に「自分たちの技術が今後も活かされる」という安心感を与えることが、事業継続・成長のカギとなります。
ハードウェア業界の今後の展望とリスク
ハードウェア業界は、急速な技術革新と社会課題への対応を背景に、今後も成長が期待される一方で、多くのリスクも抱えています。以下に、具体的な成長分野とリスク、そしてM&Aの重要性を詳しく説明します。

■ 成長分野
1. 半導体市場の拡大
世界的な半導体不足を背景に、各国で供給力強化の動きが加速しています。日本政府も「半導体戦略」を掲げ、巨額の補助金を投入しながら、国内の生産体制や開発力の底上げを進めています。
特に、5G通信・自動運転・AI機器といった領域は今後も需要が高まり続ける見通しで、これらに必要な精密部品や製造装置を提供できる企業は、まさに次の成長の主役となり得ます。
ハードウェア企業にとって、こうしたトレンドは事業拡大やM&Aによる飛躍の絶好の機会です。
【出典元:経済産業省「半導体・デジタル産業戦略」】
2. IoT市場の拡大
製造業、物流、ヘルスケアなど、業界を問わずIoTの導入が急速に進んでいます。
センシング技術やネットワーク機器など、IoTを支えるハードウェアの重要性が年々高まっており、そのニーズはまだ伸びしろがある状態です。 特に、中小・地域密着型のハードウェア企業にとっては、高い専門性やニッチ技術が評価される分野でもあり、M&Aを通じた事業承継や提携によってスケールを拡大する動きが活発化しています。
【出典:総務省「IoT推進政策」】
3. 5G関連市場
日本国内でも5G基地局の設置や通信機器の整備が本格化しており、それを支える電子部品・金属加工・筐体製造といったハードウェア製造の需要が高まっています。
さらに、5Gの特長である「低遅延・高速通信」を活かした新たなビジネス(自動運転、遠隔医療、スマート工場など)が次々と生まれ、そのインフラを担う通信系ハードウェア企業は極めて重要な役割を担っています。
今後の成長を見据えて、M&Aによる事業の多角化や販路強化を目指す動きも出てきており、タイミングを逃さない対応が求められています。
【出典元:総務省 「5G総合戦略」】
4. グリーンIT・環境対応製品
脱炭素社会に向けた国際的な潮流により、省エネ機器や再生可能エネルギー関連のハードウェアに対する需要が急増しています。
カーボンニュートラル実現を後押しする製品の開発・供給は、今や単なる事業領域の一つではなく、企業の評価を大きく左右する要素です。
特に、スマートファクトリーやスマートシティ向けに必要なインフラ製品の市場は今後も拡大が見込まれ、環境性能を武器とする中小企業には大手企業との資本提携やM&Aによる成長戦略の道が開けています。
【出典:経済産業省「グリーン成長戦略」】
■ 主なリスク
1. サプライチェーンの混乱
近年、米中対立やロシア・ウクライナ情勢などの地政学リスクに加え、パンデミックによる国際物流の停滞など、サプライチェーンを取り巻く環境はますます不安定になっています。
特に中小ハードウェア企業では、主要部品の納期遅延や調達コストの上昇が経営を直撃し、取引先との信頼関係や収益性にまで影響を及ぼすケースが増えています。
これからの経営には、サプライチェーンの多元化やBCP(事業継続計画)の見直しが不可欠です。自社単独での対応が難しい場合、M&Aや資本提携を通じてリスク分散を図る選択肢も現実味を帯びています。
【出典元: 経済産業省「半導体政策の動向」】
2. カーボンニュートラル対応の負担
世界的に加速する脱炭素の流れを受け、ハードウェア製造においても環境負荷の低減や省エネ投資への対応が強く求められています。
しかし、省エネ設備や製造プロセスの見直しには多額のコストがかかるため、中小企業にとっては対応が重い負担となりがちです。対応の遅れが、サプライヤーからの取引停止や企業評価の低下といったかたちで跳ね返ってくるリスクも否定できません。
今後は、環境対応を進めている企業ほど「選ばれる側」になる時代。M&Aを通じて、環境技術を持つ企業との連携やスキル導入を早期に進めることが、生き残りと成長のカギになります。
■ 業界再編とM&Aの重要性
ハードウェア業界では今、技術力や資本力を補う目的で大手による中小企業の買収が活発化しています。
また、中小企業同士が統合し、スケールメリットを狙う動きも加速しています。
こうした再編の流れの中で、M&Aは「事業承継の手段」にとどまらず、成長と生き残りの戦略的選択肢となりつつあります。
まとめ|激動のハードウェア業界を生き抜くM&A戦略
ハードウェア業界は、半導体・IoT・5G・グリーンITといった成長分野に支えられ、今後も大きなビジネスチャンスが広がっています。一方で、急速な技術革新やサプライチェーンリスク、環境規制への対応、そして深刻な後継者問題など、多くの課題も抱えています。
これらの環境変化に柔軟に対応し、企業の持続的な成長と事業存続を実現する手段として、M&Aは今や不可欠な戦略となっています。単なる事業承継にとどまらず、技術力強化や市場拡大、経営基盤の安定化を図るための有効な選択肢です。
ハードウェア業界の経営者は、早期に自社の状況を見直し、戦略的なM&Aの活用を検討することで、次世代へとつながる未来を切り拓くことができるでしょう。専門家のサポートや政策支援を上手く活用し、激動の時代を乗り越える準備を進めていくことが重要です。
担当コンサルタント紹介
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業界特化法人部 シニアコンサルタント
古川 龍也
京都大学大学院卒、メガバンクに入行し、法人融資・企業調査業務に従事。グループ証券会社に出向し、M&A業務を経験。2021年1月にたすきコンサルティングに入社し、多数の会社を成約に導く。
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