M&Aにおける必要書類「最終契約書」(DA)とは?売却前に知っておきたい注意点を解説

M&Aの最終ステップで交わされる「最終契約書」。これは、単に“売却が決まる”というだけでなく、その後の責任範囲やリスク対応を明確にする重要な書類です。
特に事業承継M&Aでは、「売って終わり」ではなく、「次の世代に安心して引き継ぐため」の契約書であるという意識が重要です。
本記事では、最終契約書の概要、種類、チェックすべきポイントなどわかりやすく解説します。

最終契約書とは?

M&Aにおける最終契約書(DA:Definitive Agreement)とは、M&Aの条件がすべて確定し、当事者間で法的拘束力を持つ「最終合意」を交わす契約書です。基本合意書(LOI)とは異なり、記載された内容には法的義務が生じます。
具体的には、譲渡対象、譲渡価格、支払条件、表明保証、誓約事項、損害賠償、クロージング条件などが詳細に定められます。

最終契約書を締結するタイミング

最終契約書を締結するタイミングは、デューデリジェンスが完了し、両者が条件面で折り合いがついたタイミング、つまりクロージング(最終的な取引実行)直前が一般的です。通常は、最終契約書の締結からクロージングまでに1〜2週間程度の調整期間が設けられます。

最終契約書の主な種類

種類概要主な選択理由
株式譲渡契約書株主が保有する株式を売却し、経営権を引き継ぐ形式契約の簡素さ、契約先が1社で済むため、中小企業M&Aでは主流
事業譲渡契約書会社の一部(特定の事業部門や資産)を売却契約対象を選別したい場合や、負債を切り離したい場合に有効
合併契約書等吸収合併、新設合併、会社分割などで利用されるグループ再編や資本関係の再構築時に用いられる

最終契約書に記載する基本的な項目と内容

M&Aにおける最終契約書には、譲渡の具体条件だけでなく、譲渡後のリスク管理や権利義務に関する取り決めも細かく記載されます。下記に、最終契約書に含まれる主要項目とその具体的な内容を解説します。

譲渡対象の明確化

譲渡の対象が「株式」か「事業(資産・負債)」かに応じて、具体的に何を譲渡するのかを明記します。

  • 株式譲渡の場合:譲渡する株式数、譲渡人(売主)の氏名・保有割合
  • 事業譲渡の場合:譲渡する事業の範囲(営業権、顧客データ、固定資産、契約など)

ポイント:譲渡対象に含まれない資産や負債(除外資産)も明確に記載することで、誤解やトラブルを防ぎます。

譲渡価格と支払い条件

譲渡価格の金額だけでなく、その算定根拠や支払い方法・スケジュールも含めて記載します。

  • 一括払・分割払・アーンアウト(業績連動)の有無
  • 支払い通貨と期日
  • 支払い遅延時の取り扱い(利息・違約金など)

ポイント:特にアーンアウト方式を採用する場合は、評価基準や集計方法を細かく取り決めておく必要があります。

クロージングの条件

クロージングとは、譲渡の実行日(決済日)を指します。クロージングに必要な手続き・条件を明記します。

  • 必要な社内承認、株主総会決議の取得
  • 許認可の移転、契約先との同意取得
  • DDでの重大な問題の不存在

ポイント:未達成の場合に契約が解除できる条件(解除権)も併せて明記します。

表明保証

売主・買主それぞれが「現時点で真実であると保証する事項」を記載する条項です。

  • 売主側の例:「訴訟・税務調査などの未解決案件はない」「全従業員に就業契約が締結されている」
  • 買主側の例:「支払い能力がある」「法的な取引制限を受けていない」

ポイント:事実と異なる内容があった場合は、損害賠償責任が発生します。虚偽や誤認の可能性がある場合は「合理的な範囲で知る限り」といった文言でリスク軽減も可能です。

誓約事項

契約締結後やクロージング後に当事者が果たす義務や制限事項を定めます。

  • 競業避止義務(同業種での再起業制限)
  • 従業員・顧客の引抜き防止
  • クロージングまでの経営継続義務

ポイント:実務上、「何年間/どの地域で」などの制限範囲を明確にすることが交渉のポイントになります。

補償および損害賠償条項

契約違反や表明保証違反が発覚した場合の、損害賠償や補償の範囲・上限を定めます。

  • 賠償額の上限(通常は譲渡価格の○%まで)
  • 補償期間(通常は1~2年)
  • 免責額(少額の請求は対象外とする)

ポイント:売主側にとっては「賠償責任の範囲を絞る」ことが非常に重要です。

契約解除条項

クロージング前の条件未達や重大な契約違反が発生した際に、契約を解除できる条件を明記します。

  • 解除できるタイミングと通知方法
  • 解除によって損害が発生した場合の責任

準拠法と裁判管轄

契約書の解釈に用いる法律(通常は日本法)と、万が一の訴訟時の管轄裁判所を記載します。

表明保証とは?売り手が注意すべき条項

表明保証とは、「私たちの会社には、未払い税金や隠れた負債はありません」「全社員の雇用契約書は整備されています」といった、売り手側が買い手に対して“事実”を約束する条項です。

これが誤っていた場合、売却後であっても損害賠償を求められる可能性があります。よって、事実と異なる表明がないよう、以下の点を慎重にチェックすべきです。

  • 財務資料、登記情報、契約書などを基に事実を裏付ける
  • 「現時点では知り得ない」ことについては、限定付きで記載する
  • 税務や労務、取引リスクなどは専門家の意見も仰ぐ

最終契約書の主な作成手順・流れ

① デューデリジェンス(DD)の完了

買い手側が、財務・法務・税務・人事・事業などの各分野において売り手企業を詳細に調査します。
このDDを通じて、潜在的なリスク・不備・価格妥当性が評価され、最終契約書の内容に反映されます。

② 主要取引条件の最終調整

DDの結果を受けて、譲渡価格、支払い方法、譲渡資産の範囲、責任分担、誓約事項(競業避止義務など)について、買い手と売り手間で最終的な交渉が行われます。

③ 最終契約書(ドラフト案)の作成

通常は買い手側がドラフト(原案)を作成します。M&Aアドバイザーが内容を起草し、売り手側に提示されます。

④ 売り手側でのリーガルチェックと修正提案

売り手企業側のM&Aアドバイザーが、提示された契約書案の内容を精査し、リスクや曖昧な表現について修正提案を行います。

⑤ 契約条項の最終調整と合意

双方の修正案を突き合わせ、譲渡条件やリスク分担について最終的な合意を形成します。合意形成には複数回のやり取りが必要になるケースもあります。

⑥ 最終契約書の締結(署名・押印)

合意された契約書の内容に基づき、両者が正式に署名・押印し、最終契約が締結されます。
この時点で、法的拘束力が発生し、原則として後戻りはできません

⑦ クロージング(契約の実行)

契約に定められた条件(支払いや登記、許認可の移転等)を履行し、正式に取引が完了します。
クロージング完了をもって、M&Aは実務的にも「完結」となります。

売り手側が確認すべき最終契約書のチェックリスト

✅ 自社が果たすべき義務・条件が明確か
✅ 表明保証に事実と異なる記載がないか
✅ 補償条項(賠償範囲・期間)は交渉できているか
✅ 契約不履行時の責任が過大になっていないか
✅ クロージングまでの段取りが現実的か
✅ 契約後の競業避止義務などの影響を確認しているか

まとめ|最終契約書は“安心して引き継ぐため”の設計図

M&Aにおける最終契約書は、単なる「売却完了の証」ではありません。
それは、譲渡後の責任やリスク、信頼関係のあり方を明文化した、未来のトラブルを未然に防ぐための“設計図”です。

特に中小企業の事業承継では、後継者や従業員、取引先といった周囲の関係者に安心感を与える契約内容であることが求められます。
「知らなかった」「そんなはずじゃなかった」とならないよう、経営者自身が内容を理解し、納得した上で契約を結ぶことが何より大切です。


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