M&Aのメリットとデメリットについて
M&Aのメリット・デメリットは売手企業・買手企業の立場によって異なります。M&Aを成功させるためには、各それぞれの立場でのメリット・デメリットを理解することも必要です。本記事ではM&Aに関する様々なメリット・デメリットをわかりやすく解説していきます。
(+)売手企業からみたM&Aのメリット
「M&Aは企業同士が結婚する」とよく例えられます。結婚では、お互いの価値観や家族背景、生活スタイルを理解し合い、一緒になることでより幸せな未来を目指しますよね。M&Aも同じように、企業同士が協力し合って、それぞれが単独では実現できない成長や目標を目指します。まずは、売手企業を視点としたときのM&Aにおけるメリットです。
1.事業承継の実現
後継者不足の解決です。自分の手で後継者を選定するリスクを減らすことができます。
2023年1月に行われた中小企業の調査によると、中小企業のうち後継者が決定している企業は1割程、5割超が廃業を予定しており、後継者がいない理由はそのうちの2割を占めています。
【出典:「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」】
経営者の高齢化が進んでいる日本では、その解決策としてのM&Aによる売却はメリットが大きく、市場としてのポテンシャルも大きいことがいえるでしょう。
さらに、会社を存続させることで事業を継続させることができ、取引先との関係性や従業員の雇用を守ることができます。
2.資産の現金化
M&Aによる株式や事業を売却することで、まとまった資金を得られるというメリットがあります。 買手企業が売手企業の価値を高く評価するほど、多くの資金を得ることができます。その資金をリタイア後の生活や新たな挑戦に活用する経営者も多くいらっしゃいます。
3.成長機会の提供
買手企業の資金力やノウハウを活用することで、事業がさらなる成長を遂げる可能性があります。
売手企業が単独では実現しにくかったことを、買手企業の資源や能力を通じて可能にする大きなメリットです。これにより、売手企業側は会社を手放しても、自分の築いた事業がさらに大きく発展していくという安心感を得られる点が特筆されます。
4.責任の軽減
会社を経営するうえでは、日々の運営や意思決定において大きな責任が伴います。特に、中小企業の場合、経営者と株主であるオーナーが同一であることがほとんどで、実質1人で経営責任を負っているのが実情です。M&Aにより経営から引退することで、経営者としての責任(日々の経営判断やリスク対応)から解放されます。
また、経営者が個人的に負担していた融資の保証や会社の財務リスクが、M&Aにより買手企業に引き継がれる場合があります。
(-)売手企業からみたM&Aのデメリット
ここまでM&Aにおける売手企業のメリットを挙げてきましたが、同様にデメリットもあるので注意が必要です。
M&Aは、売手企業にとって将来の成長や経営者の負担軽減といった大きなメリットをもたらしますが、同時に独立性の喪失や従業員の不安、取引先との関係変化など、多くの課題が存在します。これらを正確に理解し、事前に対策を講じることで、デメリットを最小限に抑えることが重要です。
1.買手企業との価値観の違い
売却後、企業文化や経営方針の違いから従業員や顧客に影響が出る場合があります。例えば、これまでの経営理念や社風が変化し、従業員が混乱する可能性があります。また、新しい管理体制やルールに適応できず、優秀な人材が流出してしまうリスクがあります。
しかし、企業文化が統一されることで雇用の安定性が増し、充実した福利厚生や教育制度、キャリアアップのチャンスも得やすいです。総合的に働きやすくなる場合も多いため、M&Aは従業員にとっても大きなメリットになる場合もあります。
2.売却価格が期待に届かない
M&A交渉で提示される売却価格が、経営者や株主の期待に達しない場合があります。特に、業績が悪化している場合は、適正価格を得るのが難しくなります。
その場合、売却前に自社の業績を改善することで買手企業にとっての魅力を高めることもできます。 また、市場環境や業界の動向を考慮して、最適な売却時期を選ぶことも重要です。
(+)買手企業からみたM&Aのメリット
買手企業にとってM&Aのメリットは、「時間をお金で買う」とよく表現されるように具体的にどのような利点があるのか解説します。
1.短期間での事業の拡大
新しい事業をゼロから始めることなく、短期間で新しい市場や地域へ進出することができます。例えば、海外市場に進出する際、現地の市場に詳しい企業を買収すれば、事業展開の準備期間を大幅に短縮できます。
また、既存の事業を成長させる際にもM&Aを活用するケースが多いです。この場合、既存事業とのシナジー効果(売上拡大・コスト削減)を狙うことができます。同じ業界の企業を買収して生産設備や販売ネットワークを統合することで、重複コストを削減し、効率を改善できます。
2.規模の拡大と競争力の強化
M&Aによって、自社の規模を一気に拡大し、競争優位を確保できます。例えば、同業他社を買収することでシェアを拡大し、価格競争力や交渉力を強化できます。
3.技術やノウハウの獲得
買収先の企業が持つ独自の技術や専門知識を自社に取り込むことができます。具体例として、医療機器メーカーが専門的な研究者を抱える企業を買収することで、研究開発力を強化します。
4.ブランド力や顧客基盤の獲得
買手企業が持つブランド力や顧客リストを活用することで、自社の事業をさらに成長させることができます。例えば、老舗ブランドを持つ企業を買収し、既存事業と組み合わせることで新しい顧客層を開拓できます。
(-)買手企業からみたM&Aのデメリット
買手企業にとってM&Aには多くのメリットがある一方、慎重に検討しなければデメリットも生じる可能性があります。以下は代表的なデメリットです。
1.買収コストの負担が大きい
M&Aは一般的に高額な投資を伴います。買収価格が市場価値や将来の利益に見合わない場合、過剰な負債を抱えるリスクがあります。買収後の事業収益で投資回収が難しくなるケースも考えられます。理想の売手企業であったとしても、厳密なデューデリジェンス(適正価格の評価)と慎重な買収価額の検討が大切です。
2.統合(PMI)の難しさ
買収後の統合(Post-Merger Integration, PMI)が適切に行われないと、シナジー効果を得られない場合があります。さらに、組織文化の違いや運営方針の不一致により、従業員のモチベーション低下や業績悪化が生じる可能性があります。
大企業が買収したスタートアップのスピード感やイノベーション文化を活かせず、買収の目的を達成できないといった事例もあります。シナジー効果を生み出すためにもPMI計画の綿密な準備が大切です。
さらに、従業員の離職リスクはM&Aにおける重大な課題の一つですが、事前準備や適切な対応によって大幅に軽減できます。買収後の成功には、従業員の協力が不可欠であるため、慎重な配慮が必要です。
3.想定外のリスクの顕在化
デューデリジェンスで全てのリスクを把握しきれないこともあります。その場合、売手企業に隠れたリスク(負債、法務問題、規制違反など)が存在する場合、M&A実施後に損失が発生する可能性があります。売り手自身も気付いていないケースもあることから、前持った潜在リスクのシナリオ分析が大切です。
4.既存事業への影響
買収のためにリソースを割きすぎると、既存事業が疎かになる場合があります。M&Aに集中するあまり、既存事業の顧客対応やイノベーションが停滞し、競合他社にシェアを奪われる可能性もあるので、経営リソースのバランス管理が重要になってきます。
M&Aのメリット・デメリット まとめ
これらのメリット・デメリットは、戦略的にM&Aを進める際に特に重要です。ただし、買収後の統合プロセス(PMI)を適切に管理しないと、期待した効果が得られないリスクがあることも留意する必要があります。M&Aは大きなリターンを期待できる一方で、適切なリスク管理が必要です。
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