【業界記事】2025年最新│ソフトウェア・SaaS業界のM&A動向と事業承継戦略|成功事例と今後の展望を徹底解説

急成長を続けるソフトウェア・SaaS業界では、競争激化や経営者の高齢化を背景に、事業承継の課題が顕在化しています。これに伴い、M&Aを活用した事業承継が加速しています。本記事では、2025年最新のM&A動向や、直近の成功事例、業界特有の課題と今後の展望を解説します。
【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
中小企業の事業承継を支援するM&A仲介会社であり、約20年の財務コンサルティング実績を有する。公認会計士や税理士、中小企業診断士などの専門家が在籍し、全国規模で中小企業のM&Aをサポートしております。
※中小企業庁「M&A支援機関登録制度」登録済
※一般社団法人「M&A支援機関協会」登録済
目次
ソフトウェア・SaaS業界とは?
ソフトウェア・SaaS業界とは、企業や個人向けにソフトウェア製品やサービスを提供する業界であり、特に近年は「SaaS(Software as a Service)」モデルが急速に拡大しています。従来のパッケージソフトと異なり、SaaSはクラウド上で提供されるソフトウェアサービスであり、月額課金や年額課金といったサブスクリプション型ビジネスモデルが主流です。 代表的なSaaSサービスには、会計ソフト、営業支援(SFA)、顧客管理(CRM)、人事労務管理、マーケティングツールなどがあり、企業の業務効率化やコスト削減を支援するツールとして広く導入が進んでいます。
ソフトウェア・SaaS業界の現状と市場動向
政府は「クラウド・バイ・デフォルト原則」のもと、行政のデジタル化を推進しており、国や自治体でSaaS導入が急速に進んでいます。
特に2023年度末には57の行政システムがクラウドに移行し、SaaS市場の拡大を後押ししています。
また、2024年10月には、行政機関がSaaSを簡易に調達できる「デジタルマーケットプレイス」も開始されました。
民間でも、業務効率化や生産性向上を目的にSaaSを導入する企業が増加しており、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む中小企業は2019年の約10%から2023年には約27%へと増えています。
こうした背景から、SaaS市場は今後も成長が見込まれ、事業の継承・M&Aニーズも高まりつつあります。
【出典元:デジタル庁「デジタルインフラ整備の推進」、経済産業省「2024年版中小企業白書」】
ソフトウェア・SaaS業界が抱える事業承継の課題
- 経営者の高齢化と後継者不在
- 競争激化と収益モデルの限界
- 技術者・開発人材の確保難
ソフトウェア・SaaS企業の多くが分類される「情報通信業」では、2024年時点での後継者不在率が77.32%と非常に高い水準に達しており、事業承継が深刻な課題となっています(東京商工リサーチ調査)。全業種平均の62.15%を大きく上回るこの数値は、業界特有の構造的な問題を反映しています。このような状況を背景に、M&Aを活用した事業承継の重要性が一層高まっています。
特に中小規模のソフトウェア・SaaS企業では、経営者の高齢化が進む一方で、後継者が決まっていないケースが目立ちます。創業者主導で成長してきた企業が多いため、次世代への経営移譲が計画的に進んでいない現状があります。
さらに、SaaS市場は新規参入が容易であることから、近年は競争が激化しています。多くの企業が価格競争に巻き込まれ、サービスの差別化が難しくなる中、安定した収益モデルの構築に課題を抱える企業も少なくありません。こうした厳しい競争環境は、事業継続そのものに影響を及ぼしています。
加えて、技術革新のスピードが速いソフトウェア・SaaS業界では、優秀なエンジニアや開発人材の確保が大きな課題となっています。慢性的な人材不足により、プロダクト開発やサービス提供が滞るリスクも指摘されています。
このように、経営者の高齢化・後継者不在、競争激化による収益圧迫、そして人材不足という三重苦の中で、ソフトウェア・SaaS企業が持続的に成長していくためには、早期に事業承継の選択肢を検討することが不可欠です。特に、M&Aを通じた第三者承継は、これらの課題を解決し、企業価値を次世代へと繋ぐ有効な手段として注目されています。
【出典元:東京商工リサーチ「2024年『後継者不在率』調査」】
ソフトウェア・SaaS業界のM&A成功事例
✅ マネーフォワードによるクラビスの完全子会社化(2017年)
マネーフォワードは、クラウド会計ソフト「STREAMED」を提供するクラビスを完全子会社化しました。これにより、バックオフィス業務の効率化を狙い、SaaSプロダクトの強化を実現しました。
【出典元:マネーフォワード公式プレスリリース】
✅インフォマートによるタノムの買収(2024年3月)
BtoBプラットフォームを展開するインフォマートは、飲食業界向け受発注SaaS「TANOMU」を提供するタノムの株式を取得し、出資比率を段階的に引き上げ、最終的に97%を取得しました。買収金額は約23.86億円で、飲食業界の受発注業務のDXを加速させる狙いがあります。
【出典元:インフォマート、卸向け受発注サービスのタノムを連結子会社化】
✅アンドパッドによるコンベックスの買収(2024年4月)
建設業界向けSaaSを提供するアンドパッドは、住宅・不動産業界に特化したマーケティングオートメーションツールを開発するコンベックスを買収しました。これにより、施工管理から営業管理までをワンストップで提供する体制を強化し、業界全体のDXを推進しています。
【出典元:アンドパッド、コンベックスの株式取得に関するお知らせ】
✅クウゼンによるアルファコムの買収(2024年5月)
AIチャットボットを提供するクウゼンは、ITソリューション企業であるアルファコムの全株式を取得しました。アルファコムは2023年4月期に約5.19億円の売上高を計上しており、クウゼンはこの買収により、AIソリューションの提供体制を強化し、顧客対応のDXを推進しています。
【出典元:クウゼン、アルファコムの株式取得に関するお知らせ】
当社におけるソフトウェア業界のM&A事例
過去に当社が成約させていただいた事例をご紹介します。
ソフトウェア受託開発 × ソフトウェア・システム開発
中国人技術者の技術力が評価される | M&A・事業承継なら「たすきコンサルティング」

ソフトウェア開発 × ソフトウェア開発
初回面談時からご縁を感じるM&A | M&A・事業承継なら「たすきコンサルティング」

ソフトウェア・SaaS業界において事業承継を成功させるためのM&Aのポイント
ソフトウェア・SaaS業界での事業承継は、一般的な業種とは異なる特有のリスクと成功要因があります。以下のポイントを押さえることで、円滑かつ価値を最大化するM&Aが実現できます。

技術力・知的財産(IP)の適切な評価と引継ぎ
SaaS企業における最大の資産は、ソフトウェア技術やクラウド基盤、特許・著作権などの知的財産です。M&A時には、自社開発のソースコードの保守性や、ライセンス契約の状況を明確にし、買い手に安心感を与えることが重要です。
顧客基盤・契約内容の整理
SaaSモデルでは、サブスクリプション契約の継続率(チャーンレート)やLTV(顧客生涯価値)が企業価値に直結します。事業承継に向けて、主要顧客の契約状況や更新率を整理し、安定した収益基盤を示すことが成功の鍵です。
キーパーソン(技術者・営業担当)の離職防止策
SaaS企業では、特にエンジニアやプロダクトマネージャーが競争力の源泉です。M&A後に重要人材が流出しないよう、インセンティブ制度やキャリアパスを事前に設計しておくことが求められます。
サービス継続性の確保(PMI計画)
クラウドサービスの運用は24時間365日が基本です。M&A後のシステム統合(PMI)で障害やサービス停止が発生しないよう、データ移行計画や運用体制を事前に策定することが重要です。
バリュエーション(企業価値評価)の最適化
ソフトウェア・SaaS企業は、将来の成長性が評価されるケースが多いため、単なる財務データだけでなく、ARR(年間経常収益)、ユーザー数推移、成長戦略を明確に説明できる資料作成が重要です。
法務・ライセンスリスクの事前確認
ソフトウェアにはOSS(オープンソースソフトウェア)の使用状況や、第三者ライセンス契約の問題が潜在する場合があります。デューデリジェンス前に、法務リスクを洗い出し、クリアにしておくことがスムーズなM&A成立につながります。
法改正と政策の影響
近年、日本政府はデジタル化推進と中小企業の事業承継支援を目的に、さまざまな政策を打ち出しています。特にソフトウェア・SaaS業界にとって、以下の制度がM&Aを活用しやすくする要因となっています。
デジタル庁「クラウドサービス利用促進策」
デジタル庁は、行政・民間企業のデジタル化を加速させるため、クラウド・SaaSサービスの利用を推奨する方針を掲げています。
これにより、クラウドサービス事業者への需要が拡大し、SaaS企業の成長機会が増加。その結果、大手企業によるSaaS企業の買収や、中小SaaS企業同士の統合が進む背景となっています。
【出典元:デジタル庁「ガバメントクラウドの整備」】
【出展元:デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」】
中小企業庁「事業承継・引継ぎ補助金」
中小企業庁は、後継者不在の企業向けにM&A支援策を強化しています。
「事業承継・引継ぎ補助金」は、M&Aにかかる仲介手数料や専門家費用の一部を補助する制度で、2024年度は対象枠がさらに拡大されました。
これにより、資金的な不安からM&Aを躊躇していた中小ソフトウェア・SaaS企業でも、第三者承継を選択しやすい環境が整っています。
【出展元:中小企業庁「事業承継・引継ぎ補助金」】
今後の展望|ソフトウェア・SaaS業界はM&Aで成長と再編を加速
ソフトウェア・SaaS業界は、今後もクラウドサービスの普及やDXの推進を背景に、市場規模の拡大が続くと予測されています。特に、AIとの連携や、データ活用の高度化が進むことで、企業の業務効率化や生産性向上を支援するSaaSサービスの需要はさらに高まるでしょう。
一方で、急成長市場だからこそ、競争環境は一層厳しくなると見込まれています。新規参入の増加により、サービスの差別化や価格競争が激化し、中小規模のSaaS企業にとっては、単独での成長維持が難しくなるケースも増えています。
このような状況下で、今後は以下の2つの流れが加速すると考えられます。
● 業界再編の加速
成長余力のある企業同士の統合や、大手IT企業による有望SaaS企業の買収が進むことで、業界再編が本格化します。特に、ニッチな分野で強みを持つ中小企業は、M&Aを通じてグループ化されることで、更なる成長機会を得るケースが増えるでしょう。
● M&Aを活用した成長戦略の定着
これまでM&Aは事業承継や経営難の打開策としてのイメージが強かったものの、今後のソフトウェア・SaaS業界では、「攻めのM&A」が主流になります。技術力の獲得、顧客基盤の拡大、新規市場への参入など、企業成長を加速させる手段として積極的に活用されていくでしょう。
まとめ|ソフトウェア・SaaS業界の事業承継はM&Aで次の成長へ
ソフトウェア・SaaS業界は、クラウドサービスの普及やDX推進を背景に、今後も大きな成長が期待される一方で、後継者不在や競争激化、技術者不足といった課題に直面しています。このような環境下で、事業承継の手段としてM&Aを活用する動きがますます重要になっています。
近年は、政府による補助金制度やデジタル化推進策が整備され、中小企業でもM&Aを活用しやすい環境が整っています。M&Aは単なる事業引継ぎに留まらず、技術力や顧客基盤の強化、さらには成長戦略の一環としても有効な手段です。
事業承継や今後の成長に不安を感じている経営者の方は、早めにM&Aを選択肢の一つとして検討することが、企業の未来を切り拓く鍵となるでしょう。専門家のサポートを活用し、自社の強みを活かした最適な承継を目指しましょう。
担当コンサルタント紹介
たすきコンサルティングでは、IT業界に精通した専門コンサルタントが、貴社のニーズに合わせた最適な事業承継支援を提供しております。後継者選定から経営資源の引継ぎまで、専門的なサポートで貴社をバックアップいたします。

業界特化法人部 シニアコンサルタント
古川 龍也
京都大学大学院卒、メガバンクに入行し、法人融資・企業調査業務に従事。グループ証券会社に出向し、M&A業務を経験。2021年1月にたすきコンサルティングに入社し、多数の会社を成約に導く。
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