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【2026年最新版】医療機器製造業のM&A・事業承継を考える前に知っておきたいこと|業界の将来性・課題・売却検討のポイントを解説

「後継者がいない」「規制対応のコストがかさんでいる」「体力があるうちに次の手を打ちたい」――医療機器製造に携わる中小企業の経営者と話していると、こうした声を耳にすることが増えました。成長市場として注目される一方、薬機法をはじめとする厳格な規制、R&D投資の格差拡大、後継者問題という現実が、この業界の中小企業を取り巻いています。本記事では、業界の市場動向と構造課題を整理したうえで、M&A(譲渡・売却)という選択肢を「正確に理解するための知識」をお伝えします。

【記事提供:株式会社たすきコンサルティング】
株式会社たすきコンサルティングは、中小企業の事業承継・M&Aを専門に支援するM&A仲介会社です。約20年にわたる財務コンサルティングを基盤に、公認会計士・税理士などの専門家と連携しながら、全国の中小企業を対象にM&Aの検討から成約までをサポートしています。
中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録し、一般社団法人「M&A支援機関協会」にも加盟しています。
※中小M&Aガイドライン(第3版)遵守の宣言について

医療機器製造業の市場規模と成長性

国内市場は4.5兆円超、年率4.0%で安定成長

日本の医療機器の国内市場規模は2023年時点で4兆5,491億円に達し、2019年からの年平均成長率(CAGR)は4.0%と安定した成長を続けています。治療系機器が市場全体の54%を占め、診断系機器が18%と続きます。またプログラム医療機器(SaMD)の国内市場は2023年に161億円と前年比約2.7倍に急増しました。この急増の大半はがんゲノムプロファイリング検査用プログラムによるものですが、AI診断・治療用アプリなど新カテゴリーの開発競争も世界的に加速しています。

【出典:「医療機器基本計画に関する調査研究事業」における調査結果(医療機器産業実態)│厚生労働省(2025年12月19日)

世界市場は2023年に約5,176億ドル規模に達し、2027年までにCAGR約5.9%での成長が見込まれています(米国CAGR6.4%、欧州5.1%)。医療機器は自動車・食品など他産業と比べ持続的に高い成長率を示す産業であり、いずれの企業規模においてもEBITDAマージンの平均値が25%を超える高収益産業でもあります。

出典:医療機器産業ビジョン2024│医療機器産業ビジョン研究会 令和6年3月

成長の果実を享受できていない国内メーカーの現実

ただし「市場が伸びていること」と「国内メーカーが伸びていること」は別の話です。国内市場の成長の大部分は輸入に吸収されており、国内製造出荷額のシェアは長期的に低下傾向にあります。グローバル大手と比べ国内企業のM&A件数は約5分の1、研究開発費の伸びも小さい。国内売上高上位20社でも海外売上高比率が50%を超えるのは7社のみで、国内依存型の収益構造から脱却できていない企業が多数を占めています。「成長市場にいながら、その成長を自社の成長に変換できているか」という問いに、経営者として向き合う必要があります。

【出典:経済産業省における医療機器産業振興の取組について│経済産業省(令和7年6月26日)

医療機器製造業が抱える構造的な課題

規制対応コストが中小企業に重くのしかかる

医療機器製造業に参入・存続するには、薬機法(医薬品医療機器等法)に基づく製造業許可・製造販売業許可の取得が必須です。リスク分類(クラスI〜IV)が上がるほど、第三者認証・承認申請・市販後調査が求められ、対応コストは増大します。QMS(品質マネジメントシステム)省令も年々厳格化しており、2021年の薬機法改正でISO 13485との整合化が進みました。大手であれば専任部門を設置できますが、従業員数十名規模の中小メーカーでは品質保証・薬事担当を兼務で対応しているケースが珍しくありません。

後継者不在という「先送りできない問題」

帝国データバンクの調査(2026年1月)によると、2025年の全国製造業の休廃業・解散件数は3,310件と過去10年で最多を更新しました。休廃業した企業の代表者平均年齢は71.5歳(過去最高)、「80代以上」の割合は過去10年で約2倍に達しています。

【出典:2025年の休廃業・解散、 6万7949件 過去10年で2番目の多さ│帝国データバンク(2026年1月9日発表)

医療機器製造業の後継者問題が特に複雑なのは、承継が「経営権の移転」だけでは完結しないからです。製造業許可・製造販売業許可の承継には行政手続きが伴い、QMS体制や技術・ノウハウの移管にも相当な準備期間が必要です。代表者が高齢になってから慌てて動き始めると、選択肢が急激に狭まります。

「黒字でも廃業」が増えている理由

「今は黒字だが、この先の環境変化に対応できる体力が続かないと判断した」──余力があるうちに動く、先を読んだ意思決定が増えています。医療機器製造業でも規制強化・競争激化を見据え、早期に次の手を打つ経営者が出始めています。

R&D投資と競争力の格差拡大

革新的医療機器の開発には数十億円規模の費用が必要で、臨床試験だけで20〜30億円を超えるケースもあります。国内企業は安定供給や法規制対応にリソースが割かれ、新規開発に投資できない構造的な問題を抱えています。デジタル化・AI活用が加速する中、技術の進展に対応できる企業とそうでない企業の差は今後さらに広がる見通しです。

【出典:医療機器産業ビジョン2024│医療機器産業ビジョン研究会 令和6年3 月

なぜ今、医療機器製造業でM&Aが増えているのか

大手企業が「外部イノベーション」を本格的に求め始めた

経済産業省「医療機器産業ビジョン2024」は、国内企業の成長には自社R&Dだけでなく「外部リソースの取り込み」が不可欠と明確に指摘しています。治療分野では「ポートフォリオ拡張のための事業買収」、診断分野では「技術補完のための買収」という傾向が世界的に強まっています。2018〜2022年の実績では国内大手のM&A件数は海外大手の約5分の1にとどまっていましたが、この格差を縮める動きが加速しています。

【出典:医療機器産業ビジョン2024│医療機器産業ビジョン研究会 令和6年3 月

倒産リスクの上昇とM&Aの「攻めの活用」

帝国データバンク(2026年3月)によると、2025年12月時点で倒産高リスク企業は12万8,220社(前年比1,260社増)と4年ぶりに増加に転じました。業種別最多は製造業の3万1,035社(前年比8.6%増)です。

【出典:帝国データバンク「全国企業倒産リスク分析調査(2025年)」(2026年3月17日発表)

業績見通しの二極化が進んでいる

帝国データバンク(2026年4月)の調査では、「精密機械・医療機械・器具製造」業種の増収増益見通し企業の割合は35.6%と全業種2位(1位:金融35.7%)となりました。TSMC熊本工場やラピダス関連投資の進展による素材・装置・部品メーカーの受注改善が背景にあります。一方で、汎用品・既存技術に依存する企業では原材料高・価格転嫁難が続いており、業界内での業績格差が鮮明になっています。「業界全体が伸びているから安心」ではなく、「自社は伸びているセグメントにいるか」という問いが重要です。

【出典:帝国データバンク「2026年度の業績見通しに関する企業の意識調査」(2026年4月22日発表)

医療機器製造業界のM&A事例

テルモ、OrganOx社の完全子会社化による臓器移植関連分野への参入(2025年10月)

テルモ株式会社は2025年10月29日、臓器保存デバイスのイノベーターであるOrganOx Limited(英国、2008年オックスフォード大学発スピンオフ)の全株式を取得し、総額約15億米ドルで完全子会社化しました。OrganOx社は常温機械灌流(NMP)技術を用いた肝臓用臓器保存デバイス「metra」を手がけ、FDA承認を取得済みの実績ある企業です。テルモは2025年3月に自社のコーポレートベンチャーキャピタルを通じてまず出資し、良好な関係を築いたうえで完全買収に踏み切るという段階的なアプローチを採りました。自社単独では開発が困難な新規分野の革新的技術を、スタートアップへの投資・買収によって取り込む戦略は、国内大手が外部イノベーションを活用する典型的なモデルを示しています。

【出典:テルモ株式会社│公式プレスリリース

朝日インテック、レイクR&D株式会社の完全子会社化(2023年1月)

長野県岡谷市に本拠を置くレイクR&D株式会社(1971年設立、医療機器製造販売業)は、2023年1月、医療機器メーカーの朝日インテック株式会社(東証プライム上場)に全株式を譲渡し、完全子会社となりました。レイクR&D社は消化器分野の処置具・鉗子等の設計・製造を手がけ、大手医療機器企業からの受注設計・受注製造を担う独自の技術・ノウハウを有する企業です。株式の譲渡元は個人株主1名であり、オーナー経営者による第三者承継の典型的なケースといえます。朝日インテックはレイクR&D社の技術を自社グループの製造工場での量産・グローバル展開につなげる方針を示しており、「技術・製品が大手の販路・製造力と結びつくことで、さらなる成長機会が生まれる」という中小メーカーM&Aの価値を体現した事例です。

【出典:朝日インテック株式会社│公式プレスリリース

旭化成(ZOLL Medical)によるItamar Medical買収(2021年12月)

旭化成の子会社であるZOLL Medical Corporation(米国)は、2021年12月、睡眠医学・心臓病学領域の医療機器を手がけるイスラエルの医療機器メーカーItamar Medical Ltd.の全株式を取得し買収を完了しました。ZOLL社はグローバルな販売網とブランド力を活用してItamar社の事業成長を加速させることを目的としています。注目すべきは、買収後もItamar社のイスラエルでの主要事業に大きな変更はなく、従来のCEOが引き続きPresidentとして事業を率いる形が維持された点です。「売却=事業の終わり」ではなく、グローバルリソースを得ながら事業を継続・拡大するモデルを示す事例です。

【出典:旭化成株式会社│公式プレスリリース

医療機器製造業のM&Aにおける特徴と注意点

一般的な製造業のM&Aと比べ、医療機器製造業には固有の論点があります。検討前に把握しておくべき主な点を整理します。

許認可の承継

製造業許可・製造販売業許可は法人単位で取得されるため、株式譲渡か事業譲渡かによって手続きが大きく異なります。製造所の移転が伴う場合は変更許可が必要なこともあります。

スキーム選択の重要性

株式譲渡・事業譲渡・会社分割のどれを選ぶかによって、許認可・契約・税務上の影響が異なります。業界事情を理解した支援者の視点が不可欠です。

情報管理と機密保持

M&A検討が従業員・取引先・競合に早期に漏れることで生じるリスクを管理する必要があります。特に取引先病院・医師との関係は慎重な対応が求められます。

価格評価で見落とされがちな論点

医療機器製造業の企業価値は、財務数値だけでは測れません。保有する許認可の種類・クラス・製品ポートフォリオ・QMS体制の成熟度・製造設備の状態・特許・顧客基盤、これらを総合的に評価される業界特有の構造があります。「この程度の利益だからこの程度の価格」という単純な計算に収まらないケースが多く、業界理解のある第三者の評価が重要です。

M&Aを選択する前に整理しておきたいこと

「 なぜ、今なのか 」

後継者がいない、余力があるうちに動きたい、規制対応の限界を感じている――動機はそれぞれです。M&Aのプロセスには通常6ヶ月〜1年以上かかります。「本当に今なのか、あと数年の猶予があるのか」を冷静に見極めることが最初のステップです。医療機器製造業では許認可承継の手続きが絡むため、「動くなら早めに」は一般論以上に重要です。

「 何を次世代に渡したいのか 」

技術・製品・ブランド・雇用・取引先など、どれを優先して守りたいのか。この優先順位が、買い手を選ぶ軸になります。価格だけで買い手を選ぶのではなく、「この会社に渡せば、自分が大切にしてきたものが続く」と思える相手かどうかを判断する軸をあらかじめ持っておくことが、後悔のない選択につながります。

「 誰に相談するか 」

「M&Aのプロ」であることと「医療機器業界を理解しているプロ」は必ずしも一致しません。薬事規制・QMS体制・許認可構造を踏まえたうえで適切な買い手を見つけ、スキームを設計できる支援者を選ぶことが成功の分岐点です。業界理解のある相談相手かどうかを見極めることが重要です。

医療機器製造業界の今後の展望とまとめ

経済産業省「医療機器産業ビジョン2024」が示す通り、日本の医療機器産業は国内市場依存から脱却し、グローバル市場獲得による成長を目指す転換期にあります。特に米国市場(世界シェア約47%、CAGR6.4%)の獲得が産業成長の鍵とされており、そのためには国内企業のイノベーション創出とM&Aの活用が不可欠と位置づけられています。

この流れの中で、大手企業による中小メーカーへの関心は高まり続けます。製造技術・許認可・ニッチな顧客基盤を持つ中小企業は、大手にとって「買いたい存在」です。一方で、規制強化・競争激化・人手不足・コスト上昇の波は、準備のない企業には重くのしかかります。

帝国データバンクの調査が示す通り、2026年はコロナ借換保証の返済ピーク・利上げ・地政学リスクが重なる厳しい経営環境が続きます。「余力があるうちに判断する」という視点が、これまで以上に重要になります。

M&Aは「会社を売る」という後ろ向きな選択ではありません。技術・雇用・製品を次の世代に引き継ぎ、自分が育ててきたものを社会に残す「前向きな経営判断」です。大切なのは、十分な情報と時間をもって、納得できる選択をすることです。

株式会社たすきコンサルティングでは、医療機器製造業界をはじめとした製造業の中小企業M&Aについて、業界理解を重視した視点から支援しています。「情報収集したい」「自社がM&Aに向いているか知りたい」という段階からご相談いただけます。


譲渡(売却)に関するお問い合わせ

医療機器製造業界では、後継者不在、規制対応コスト、R&D投資と競争力の格差拡大といった多重構造の課題が重なっており、多くの経営者様が将来への不安を抱えていらっしゃいます。
事業の譲渡や承継についての第一歩は、専門家への相談から始まります。情報収集や自社評価など、ぜひお気軽にお問い合わせください。


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